ピアノソナタ第2番 (カバレフスキー)

ドミトリー・カバレフスキー ピアノ・ソナタ第2番 変ホ長調 作品45

ドミトリー・カバレフスキー（1904-1987）のピアノ・ソナタ第2番 変ホ長調 作品45は、第二次世界大戦が終結した年である1945年に完成されました。この重要な作品は、当時を代表する名ピアニストであったエミール・ギレリス（1917-1996）に献呈されています。カバレフスキーが残した3つのピアノ・ソナタの中で、この第2番はとりわけ規模が大きく、内容においても最も劇的な深みを持つ作品として位置づけられています。

本作は、その作曲された時代背景と内包する音楽的な表現から、「戦争ソナタ」と称されることがあります。これは、同時代の作曲家であるセルゲイ・プロコフィエフ（1891-1953）が手がけた第6番などのピアノ・ソナタ群と同様に、戦時下の緊迫した雰囲気や、戦争がもたらす悲劇、そして困難な時代を生き抜く人々の感情を色濃く反映しているためと考えられます。特に第1楽章においては、その力強く推進力のある音楽語法や、高揚と対比の激しさにおいて、ドミートリイ・ショスタコーヴィチ（1906-1975）の交響曲第7番『レニングラード』のような同時代の傑作と共通する響きを見出すことができます。それは、多くのソ連の作曲家たちが、時代の証人として、音楽を通じて祖国の苦難と勝利を描こうとした姿勢を反映していると言えるでしょう。

楽曲構成

このソナタは以下の3つの楽章で構成されています。

第1楽章

Allegro moderato. Festivamente - Allegro molto - Festivamente (poco piú mosso del tempo I) - Largamente, drammatico.

長大な規模を持つこの楽章は、複雑な構成を持っています。「Allegro moderato. Festivamente（中庸の速さで、祝祭的に）」という指示に始まる通り、最初は明るく力強い、あるいは祝祭的な雰囲気で開始されます。しかし、楽章は急速なテンポの「Allegro molto」部分を経て、再び「Festivamente」に戻りつつも、次第に緊迫感を増していきます。そして最後は「Largamente, drammatico（幅広く、劇的に）」と指示された部分で締めくくられます。この緩急や性格の激しい変化は、戦時下の混沌や葛藤、あるいは時代の大きなうねりを描写しているかのようです。強烈なリズムと推進力、そして抒情的な要素が複雑に絡み合い、聴き手に強い印象を与えます。

第2楽章

Andante sostenuto - Pochissimo piú mosso - Tempo I.

緩徐楽章であるこの楽章は、「Andante sostenuto（遅く、音を持続させて）」という指示が示す通り、深い内省と哀愁に満ちた音楽です。戦争の悲劇や犠牲者への追悼、あるいは苦難の中での静かな祈りといった感情が表現されていると考えられます。「Pochissimo piú mosso（少しだけ速く）」という中間部を経て再び冒頭のテンポに戻りますが、全体としては抑制された中に深い情感が込められており、第1楽章の劇的な展開とは対照的な静寂と抒情の世界を築いています。

第3楽章

Presto assai

「Presto assai（非常に速く）」と指示された終楽章は、圧倒的なエネルギーと推進力に満ちています。輝かしいばかりの技巧的なパッセージと力強いリズムが特徴であり、フィナーレにふさわしい壮大なスケールで展開されます。この楽章は、戦争の終結、勝利への歓喜、あるいは未来への力強い歩みを象徴していると解釈されることが多いです。技巧的難易度も高く、ピアニストには高度な技術と表現力が要求されます。

作品の評価と演奏

カバレフスキーのピアノ・ソナタ第2番は、彼のピアノ作品の中でも特に重要な位置を占めています。献呈相手であるギレリスのようなヴィルトゥオーゾによって演奏されることを想定して書かれただけあり、演奏には高度な技巧と音楽性が必要です。劇的な構成、豊かな和声、そして力強いリズムは、聴き手に強い感動を与えます。今日でも、カバレフスキーの代表作の一つとして、世界中のピアニストによって演奏され続けています。このソナタは、単なるピアノ曲としてだけでなく、激動の時代を生きた作曲家のメッセージが込められた歴史的な作品としても、聴き継がれるべき価値を持っています。

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