ドミトリー・カバレフスキー

ドミトリー・ボリソヴィチ・カバレフスキー（1904年 12月30日 - 1987年 2月14日）は、ロシアの作曲家、ピアニスト、著述家です。特に子供向けの作品に秀でた20世紀の作曲家として評価される一方、ソビエト連邦体制下で公式に認められた芸術家として、ソビエト作曲家同盟の創設に関わるなど、音楽界で大きな影響力を行使しました。

生涯

カバレフスキーはサンクトペテルブルクで数学者の息子として生まれました。父からは数学の道を勧められましたが、早くから芸術に強い関心を抱き、詩作や絵画にも親しみつつ、優秀なピアニストとして成長しました。サイレント映画の伴奏ピアニストを務めた経験もあります。1925年には父の意向に反してモスクワ音楽院に進学し、ニコライ・ミャスコフスキーに作曲を、アレクサンドル・ゴリジェンヴェイゼルにピアノを師事しました。同年、学生作曲家創造集団（Prokoll）に参加しています。

第二次世界大戦中は、愛国的な歌曲を数多く作曲し、1940年にはソ連共産党に入党しました。戦時中に運営されていた『ソビエト音楽（Sovetskaya Muzyka）』誌の編集者も務めています。また、映画音楽や劇場音楽の分野にも携わりました。

1948年、アンドレイ・ジダーノフによるソビエト音楽の方向性に関する決定が下された際、カバレフスキーは当初、いわゆる「形式主義者」の一人として批判の対象とされました。しかし、彼の政治的なコネクションやソビエト連邦作曲家同盟での指導的な立場が功を奏し、リストから自身の名前を外させることに成功したとされています。

音楽的特徴と作風

カバレフスキーの音楽スタイルは、同時代の多くの作曲家と比較すると、和声において比較的伝統的です。彼は冒険的な技法よりも、調性感のある全音階を基本とし、長短音階の交替や限定的な半音階の使用に留まりました。セルゲイ・プロコフィエフのような体制から距離を置く姿勢とは異なり、彼は「社会主義リアリズム」を積極的に擁護しました。戦後の作品は「大衆的で平易、成功を収めた」と評されることがありますが、これは当時のソ連における多くの作曲家に共通する傾向でした。特に、戦後のカバレフスキーの代表作には、青少年や児童を対象としたものが多く含まれます。例えば、《ヴァイオリン協奏曲》や《チェロ協奏曲第1番》などが挙げられます。日本においては、組曲《道化師》の第2曲「ギャロップ（道化師のギャロップ）」が小学校の運動会などで頻繁に使用され、非常に高い知名度を誇ります。

音楽教育への貢献

カバレフスキーは作曲活動と並行して、音楽教育にも情熱を注ぎました。彼は子供の演奏技術と大人の音楽的な審美眼を結びつけるような作品を意図的に書いただけでなく、生前はソ連国内の25の学校で音楽教育の実験的なカリキュラムを設定しました。彼自身も一時的に7歳児のクラスを担当し、音を注意深く聴き取る方法や、音楽から受けた印象を言葉で表現する力を育む指導を行いました。彼の音楽教育に関する著作は国際的にも評価され、1988年にはアメリカ合衆国でも出版されています。

業績と地位

カバレフスキーは音楽活動を通じてソ連から数多くの栄誉を受けました。少なくとも2度のスターリン賞を受賞しており、音楽教育界においても絶大な影響力を持ちました。1962年には音楽芸術教育の委員長に、1969年にはソ連邦教育科学アカデミー芸術教育部門科学委員会の会長に就任しています。また、音楽教育国際協会の名誉会長も務めました。彼はソ連平和擁護委員会の会員やソ連国際友好推進委員会の代表としても頻繁に外国を訪問するなど、ソ連の文化外交の一端を担いました。

カバレフスキーは歌劇、交響曲、協奏曲、室内楽、ピアノ曲など、あらゆる音楽ジャンルに作品を残しています。彼の作品はソ連の公式なリアリズム路線に忠実で、その多くが分かりやすく通俗的な性格を持っています。ロシア国内では、歌曲やカンタータ、歌劇の作曲家として特に尊敬を集めていますが、国外では《ヴァイオリン協奏曲》や組曲《道化師》のような管弦楽曲によって広く知られています。

1987年、モスクワで死去しました。

門下生には、アメリカ人作曲家のレオ・スミットがいます。

主な作品には、組曲《道化師》 Op.26、ヴァイオリン協奏曲ハ長調 Op.48、チェロ協奏曲第1番ト短調 Op.49、ピアノ協奏曲（全4曲）、交響曲（全4曲）、歌劇《コラ・ブルニョン》 Op.24などがあります。また、子供向けのピアノ曲集《30の子供のためのピアノ小曲集》 Op.27や《35の子供のためのやさしい小品》 Op.89なども教育現場で広く活用されています。

彼の音楽教育に関する著作には、『三頭のくじらと音楽の話』などがあります。

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