ピアノソナタ第2番 (ショパン)

ショパン：ピアノソナタ第2番 変ロ短調 作品35「葬送」

ショパンのピアノソナタ第2番変ロ短調作品35は、その第3楽章の有名な葬送行進曲から「葬送ソナタ」または「葬送行進曲付きソナタ」として広く知られています。1839年にノアンで作曲されましたが、葬送行進曲はそれより前の1837年に作曲されたという説もあります。全4楽章からなるこのソナタは、全体を通して悲劇的で陰鬱な雰囲気に包まれており、特に葬送行進曲は当時のポーランドの悲惨な状況を反映しているという解釈もされています。ショパン自身の真意は不明な点も多いですが、この作品が彼のピアニズムの精華を凝縮した作品であることは間違いありません。

このソナタは、古典的なソナタ形式からはやや逸脱した構成を取っている点も特徴です。ロベルト・シューマンは当時の批評の中で、このソナタを「乱暴な4人の子供をソナタの名で無理やりくくりつけた」と評し、その独創性を認めつつも、特に終楽章については「これは音楽ではない」とまで述べています。一方、アントン・ルビンシテインは、このソナタを「死の詩」と表現しました。これらの評価からも、この作品がいかに型破りであり、かつ強い印象を与えたかがわかります。

しかし、この作品が暗い雰囲気一辺倒というわけではありません。全楽章が短調で書かれてはいるものの、第1楽章と第2楽章は長調で終結し、第1楽章の第2主題やスケルツォのトリオ、そして葬送行進曲のトリオなどは優美な長調の音楽で彩られています。これらの旋律は、作品全体に流れる悲劇的な雰囲気のなかにも、ひとときの安らぎや希望を感じさせる効果をもたらしています。

各楽章の詳細

第1楽章：グラーヴェ - ドッピオ・モヴィメント (変ロ短調 - 変ロ長調、2/2拍子、ソナタ形式)

劇的で陰鬱な短い序奏から始まり、2倍速の嵐のような第1主題と、対照的な穏やかで叙情的な第2主題が提示されます。展開部は主に第1主題に基づいて展開され、再現部は第2主題のみからなるという変則的なソナタ形式が用いられています。第1主題に見られる左手部のリズムはショパン特有のもので、他の作品にも見られる陰鬱で激越な曲想を特徴づけています。

第2楽章：スケルツォ (変ホ短調 - 変ト長調、3/4拍子、三部形式)

活発な主部と、嵐の後の静けさのような穏やかなトリオからなる三部形式です。主部では左手や両手の半音階が不気味さを醸し出し、エンハーモニックな転調が効果的に用いられています。一方、トリオは特に左手の旋律が美しく、静謐な雰囲気を漂わせています。

第3楽章：葬送行進曲：レント (変ロ短調 - 変ニ長調、4/4拍子、三部形式)

この楽章は、ソナタ全体の中でも最も有名で、鐘の音が鳴り響くような主題が徐々に大きくなり、慰めるような変ニ長調のトリオの後、最初の主題が再び現れて静かに消えていきます。ショパンの葬儀では、この楽章の管弦楽編曲版が演奏されたと言われています。

第4楽章：フィナーレ：プレスト (変ロ短調、2/2拍子)

最初から最後まで両手のユニゾンが続き、調性も曖昧なまま進行します。第1楽章の第1主題の音形が、この楽章では半音階の中に分散されていると解釈されています。「葬送行進曲の後を受け、墓場に風が吹く」といった表現が用いられることもありますが、ショパン自身はこれを「行進曲の後で両手がおしゃべりをする」と表現したと言われています。多くの演奏では、第3楽章からアタッカで演奏されます。

使用例

このソナタ、特に第3楽章の葬送行進曲は、様々な作品で使用されており、その悲劇的で印象的な旋律は多くの人の心に深く刻まれています。ゲームのBGMとして使用されることも多く、その幅広い使用例からもこの楽曲の人気が伺えます。

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