ピアノ三重奏曲

ピアノ三重奏曲とは

ピアノ三重奏曲は、西洋音楽における室内楽曲の一形態であり、通常、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの3つの楽器で演奏される楽曲を指します。この形式の楽曲は、一般的にソナタと同様の構成を持ち、複数の楽章から成り立っています。基本的には、急-緩-舞-急の4楽章、または急-緩-急の3楽章構成で、第1楽章がソナタ形式であることが特徴です。

歴史

ピアノ三重奏曲の萌芽は、バロック時代後期にラモーが作曲した「コンセール形式によるクラヴサン曲集」に見ることができます。この作品は、鍵盤楽器と高音旋律楽器、ヴィオラ・ダ・ガンバという編成で、各楽器の独立性が高く、後のピアノ三重奏曲の原型とも言えます。

ソナタ形式が確立してからは、ヴァイオリン・ソナタと同様に、ピアノ・ソナタにチェロとヴァイオリンのオブリガートが加わるという形態が一般的でした。初期のハイドンの作品では、ヴァイオリンとチェロのパートがピアノとユニゾンになる部分も多く見られました。

19世紀初頭になると、ベートーヴェンなどの作曲家によって、ヴァイオリンとチェロがピアノと同等の重要性を持つようになり、発展を遂げました。ロマン派時代には、ヴァイオリンが旋律を奏でるのに適しているという特性から、多くのサロン風のトリオが作られました。しかし、第二次世界大戦後には、ロマンティックな要素が敬遠され、この編成は一時的に人気を失いました。その後、1970年代に新ロマン主義が台頭し、再びこの編成が見直され、トリオ・フィボナッチなどの団体によって復興が進められています。

ロシアでは、ピアノ三重奏曲が故人への追悼曲として書かれることが多く、グリンカの「悲愴三重奏曲」を皮切りに、チャイコフスキーの「ある偉大な芸術家の思い出に」、アレンスキー、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチへと受け継がれていきました。

現在では、弦楽四重奏曲と並び、室内楽曲の中でも重要な位置を占めています。ただし、弦楽四重奏が常設の団体によって演奏されることが多いのに対し、ピアノ三重奏はソリストによる臨時の編成がほとんどです。

主な作曲家と作品

以下に、ピアノ三重奏曲の主要な作曲家と代表的な作品をまとめました。

F・J・ハイドン：48曲
モーツァルト：6曲
ベートーヴェン：7曲（番号付き）、5曲（番号なし）、3曲（未完）。他に編曲1曲（第7番『大公』が有名）
フンメル：9曲
シュポーア：5曲
シューベルト：2曲（第1番変ロ長調D.898、第2番変ホ長調D.929）
メンデルスゾーン：2曲（第1番ニ短調、第2番ハ短調）＋未出版1曲
ショパン：1曲
シューマン：3曲
フォルクマン：2曲
ラフ：4曲
フランク：4曲
ラロ：3曲
スメタナ：1曲
ブラームス：3曲
ボロディン：1曲
サン＝サーンス：2曲
チャイコフスキー：『偉大な芸術家の思い出に』
ドヴォルザーク：4曲（第4番『ドゥムキー』が有名）
リムスキー＝コルサコフ：1曲
フォーレ：1曲
フィビフ：2曲
ヤナーチェク：1曲
ショーソン：1曲
マルトゥッチ：2曲
アレンスキー：2曲（第1番ニ短調op.32が有名）
ドビュッシー：1曲
シベリウス：1曲
ルクー：1曲
ラフマニノフ：2曲（どちらも『悲しみの三重奏曲』の標題を持つ）
ラヴェル：1曲
ブリッジ：2曲
ヴィラ＝ロボス：3曲
マルティヌー：3曲
ショスタコーヴィチ：2曲（第1番ハ短調op8、第2番ホ短調op67）
矢代秋雄：1曲（大学の卒業作品）

通常の編成以外のピアノ三重奏曲

ピアノ三重奏曲は、必ずしもピアノ、ヴァイオリン、チェロの編成のみで演奏されるわけではありません。以下に、異なる楽器編成によるピアノ三重奏曲の例を挙げます。

クラリネット、ヴィオラ、ピアノ
モーツァルト：ケーゲルシュタット・トリオ 変ホ長調 K.498
シューマン：「おとぎ話」Op.132
ブルッフ：8つの小品 Op.83
ライネッケ：三重奏曲 変ロ長調 Op.264
クラリネット、チェロ、ピアノ
ベートーヴェン：ピアノ三重奏曲第4番 変ロ長調 Op.11「街の歌」
ブラームス：クラリネット三重奏曲 イ短調 Op.114
クラリネット、ヴァイオリン、ピアノ
バルトーク：コントラスツ
ミヨー：組曲 Op.157b
ハチャトゥリアン：組曲
ストラヴィンスキー：兵士の物語
クラリネット、ファゴット、ピアノ
グリンカ：「悲愴三重奏曲」（通常の編成でも演奏可）
オーボエ、ファゴット、ピアノ
プーランク：三重奏曲（1926年）
ヴァイオリン、ヴィオラ、ピアノ
メンデルスゾーン：三重奏曲ハ短調（遺作）
フルート、チェロ、ピアノ
ウェーバー：フルート、チェロとピアノのための三重奏曲 Op.63

類似の形式を持つ楽曲

ピアノ三重奏曲と類似した形式を持つ楽曲には、以下のようなものがあります。

交響曲
独奏協奏曲
独奏ソナタ
ピアノソナタ
ヴァイオリンソナタ
チェロソナタ
フルートソナタ
クラリネットソナタ
弦楽四重奏曲
ピアノ四重奏
ピアノ五重奏

これらの楽曲形式は、それぞれ独自の構成や楽器編成を持ちますが、ピアノ三重奏曲と同様に、西洋音楽における重要なジャンルとして位置づけられています。

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