矢代秋雄

矢代秋雄（やしろ あきお）

1929年9月10日、東京に生まれた日本の作曲家、音楽教育者。1976年4月9日に46歳で急逝。

生涯

少年時代

西洋美術史家の父、矢代幸雄のもとに生まれる。幼少期から音楽に親しみ、7歳でピアノを始め、10歳頃には独学で作曲を始める。ベートーヴェン、ショパン、ブラームスなどを愛聴し、早くから作曲家を志した。父の紹介で諸井三郎に師事し、ドイツ式の和声法を学んだ。その後、橋本國彦に師事し、ドビュッシーやラヴェルなどフランス近代音楽にも触れる。これらの経験は、彼の作風形成に大きな影響を与えた。

東京音楽学校時代

1945年、東京音楽学校（現東京藝術大学）作曲科に入学。黛敏郎と同期。戦時中、授業はほとんど行われなかったが、戦後、池内友次郎、伊福部昭らに師事し、作曲理論を深めた。池内からは音楽の構成美を、伊福部からは音楽の力強さを学んだ。在学中から作曲家としての才能を発揮し、ピアノ協奏曲やピアノ三重奏曲などの作品を発表した。東京音楽学校研究科に進学し、さらに研鑽を積んだ。卒業作品のピアノ三重奏曲は、師である橋本國彦に献呈された。

フランス留学時代

1951年、フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院に留学。ジャック・ドゥ・ラ・プレール、アンリ・シャラン、ノエル・ギャロン、トニー・オーバン、ナディア・ブーランジェなど、錚々たる教授陣に師事。和声法で一等賞を獲得するなど、優秀な成績を収めた。サン＝サーンスやフランクなど、フランス音楽の伝統に触れ、自身の音楽観を確立した。留学中、三善晃と親交を深めた。卒業作品として弦楽四重奏曲を作曲。この作品は、帰国後に毎日音楽賞を受賞した。

帰国後

1956年に帰国。その後、作曲活動と並行して、東京藝術大学で後進の指導にあたった。日本を代表する作曲家、野田暉行、池辺晋一郎、西村朗、荻久保和明、糀場富美子、尾高惇忠などを育成した。作曲家としては、交響曲、チェロ協奏曲、ピアノ協奏曲など、大規模な作品を手掛けた。1968年には、ピアノ協奏曲で尾高賞・文部省芸術祭奨励賞を受賞した。1974年には東京藝術大学教授に就任。数々の高校の校歌も作曲した。

死後

1976年、ヴァイオリン協奏曲の作曲中に心不全で急逝。若くして亡くなったため、作品数は多くない。しかし、その作品は高い評価を受け、没後すぐに全集が企画・出版されるなど、異例の待遇で評価された。團伊玖磨は、矢代との出会いや交流、そして死の報に接した際の衝撃を著書に記している。

人物

完璧主義者で寡作主義として知られる。作品は緻密な構成と美しい旋律が特徴である。同時代の音楽家を高く評価する一方で、旧来の語法に留まることを意図していた。作品には、整然とした形式と明確な構成を重んじた。音楽理論にも精通し、著作や翻訳も行っている。麻生保の筆名でSM雑誌に投稿していたという説もある。

作風

音楽には、整然としたエクリチュール、つまり確固たる書式、スタイル、流儀が存在するべきである、と考えていた。霊感の赴くままに、思いつきや感性で音を並べるのではなく、まず、形式が重要であるという信念を持っていた。結果的に、それが、代表作である交響曲の初演での、「日本人の手による、初めての交響曲らしい交響曲」という評価に繋がっている。

代表作

ピアノのためのソナチネ（1945年）
ヴァイオリン・ソナタ（1946年）
ピアノのためのノクチュルヌ（1947年）
ピアノ三重奏曲（1948年）
ヴィオラとピアノのためのソナタ（1949年）
ヴァイオリンとピアノのためのセレナーデ（1949年）
ピアノ連弾のための古典組曲（1951年）
弦楽四重奏曲（1955年）
交響曲（1958年）
2本のフルートとピアノのためのソナタ（1958年）
チェロ協奏曲（1960年）
ピアノ・ソナタ（1961年）
ピアノ協奏曲（1967年）
札幌オリンピックのための『式典序曲』（『白銀の祭典』とも、1972年）
ヴァイオリン協奏曲（未完。冒頭の37小節のみ）

著作

音楽留学生（吉田秀和編、音楽之友社、1957年）
和声学とその応用（ヤマハ音楽振興会、1970年）
ハーモニーのしくみ（音楽之友社、1971年）
音楽論集 オルフェオの死（深夜叢書社、1977年）
バッハ平均律の研究1（ムジカノーヴァ、1982年）
矢代秋雄和声集成（全音楽譜出版社、1982-83年）
対談集 音楽の世界（音楽之友社編、1997年）
エッセイ集 音楽における郷愁（音楽之友社、1998年）

翻訳

ノエル＝ギャロン、マルセル・ビッチュ『対位法』（音楽之友社、1965年）
日仏演劇協会編『今日のフランス演劇 第4』（白水社、1967年）

校訂・増補

テオドール・デュボワ『和声学 理論篇』（平尾貴四男訳 音楽之友社、1978年）
テオドール・デュボワ『和声学 実施篇』（平尾貴四男訳 音楽之友社、1978年）
セルゲイ・ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』二台ピアノ版（全音楽譜出版社）

外部リンク

Akio Yashiro - List of Works
矢代秋雄：「みえ国体のための　式典組曲」｜YTJミュージック

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