ピアノ三重奏曲第1番 (ブラームス)

ブラームス：ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 作品8

ヨハネス・ブラームスによって1854年に作曲されたピアノ三重奏曲第1番ロ長調作品8は、彼の初期の重要な室内楽曲の一つです。この作品の特筆すべき点は、作曲家自身によって大幅に改訂された版（1889年版）が存在し、初版（1854年版）と共に現在も演奏・出版されていることです。ブラームスは通常、改訂を行った際には初版を破棄することが多かったため、出版された作品の中で二つの版が並存するのはこの作品だけという非常に珍しい例となっています。現在演奏される機会が多いのは、ほとんどの場合1889年の改訂版です。

音楽的な特徴として、この作品は長調で始まり、同主短調で終結するという構成を持つ、多楽章による大規模な楽曲の比較的初期の例として、メンデルスゾーンの「イタリア」交響曲などと並び称されることがあります。

初演について

初版（1854年版）は、作曲から比較的早い時期である1855年11月27日にニューヨークで初演されました。この時の演奏者は、ピアノのウィリアム・メイソン、ヴァイオリンのセオドア・トーマス（後にシカゴ交響楽団を創設）、チェロのカール・バーグマン（後にニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者を務める）という、当時のアメリカ音楽界を担う面々でした。

改訂版（1889年版）は、作曲から約35年を経て、1890年1月10日にブダペストで初演されました。この初演では、ブラームス自身がピアノを演奏し、ヴァイオリンをイェネー・フバイ、チェロをダーヴィト・ポッパーが担当しました。作曲家自身が演奏に加わった貴重な機会であったと言えます。

楽曲構成と改訂による変化

このピアノ三重奏曲は全4楽章で構成されています。改訂版では、単に手直しがされただけでなく、主題そのものが書き換えられた箇所もあり、全体的な規模も大幅に縮小されました。具体的には、初版の総小節数1728小節に対し、改訂版は1279小節となっており、特に第3楽章以外で短縮が行われています。

1. 第1楽章：Allegro con brio（初版：Allegro con moto）
2分の2拍子、ソナタ形式、ロ長調。改訂版では、初版に含まれていた第2主題が全面的に書き直され、冗長であった部分が削除されるなど、構成が引き締められています。

2. 第2楽章：Scherzo. Allegro molto
4分の3拍子、三部形式、ロ短調。この楽章における改訂の主な違いは、中間部の速度指定が初版の「ピウ・レント」から改訂版の「メノ・アレグロ」に変更された点、そして終結部分の扱いです。初版が弱音で静かに終わるのに対し、改訂版はフォルテで力強く締めくくられます。

3. 第3楽章：Adagio（初版：Adagio non troppo）
4分の4拍子、三部形式、ロ長調。この楽章は改訂版でも最も原型を留めているとされますが、中間部には明確な書き換えが見られます。

4. 第4楽章：Allegro（初版：Allegro molto agitato）
4分の3拍子、再現部において第1主題を欠くソナタ形式、ロ短調。第1楽章と同様に、改訂版では第2主題が書き直され、展開部が縮小されるなど、内容が整理されています。

ブラームスが自身の初期作品を成熟した視点から見直し、大規模な改訂を施したこのピアノ三重奏曲第1番は、作曲家の創作過程を知る上で非常に興味深い作品であり、またブラームスの室内楽を代表する傑作の一つとして、現在も広く愛され親しまれています。

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