ピアノ協奏曲第2番 (ベートーヴェン)

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品19は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが初期に作曲した重要な作品です。作品番号は「第2番」とされていますが、実際には彼のピアノ協奏曲第1番よりも先に作曲に着手されました。長らく1793年頃の作曲開始とされていましたが、近年の研究により、その起源はさらに遡り、1786年頃（あるいは翌年）には作曲が進められていたことが明らかになっています。これは、彼がボンで活動していた時期にあたり、ピアノ協奏曲第0番（WoO.4）に続くピアノ協奏曲への挑戦であったことを示しています。

この協奏曲は、同時期のピアノ協奏曲第1番と比較すると、楽曲の規模やオーケストラの編成がやや小ぶりです。音楽スタイルにおいても、当時の主流であったフランツ・ヨーゼフ・ハイドンやヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトからの影響が色濃く見られます。しかしながら、その中にも後のベートーヴェンを予感させる独自の表現や独創的なアイデアが随所に光っており、初期ベートーヴェンの個性がどのように形成されていったのかを辿る上で非常に興味深い作品と言えます。楽器編成は、独奏ピアノに加え、フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、そして弦五部という構成です。この比較的小規模な編成は、初期には貴族のプライベートな演奏会を想定していたためではないかと考えられています。

作品は複数回の改訂を経て現在の形に至っています。少なくとも4種類の異なる版が存在し、これらはボン時代（1790年頃、ベートーヴェン20歳）からウィーン移住後、1798年（28歳）にかけて施されました。作曲者自身は、完成後もこの作品に対して完全な自信を持てず、出版社への手紙で「あまり最良の出来とは言えない」と率直に述べています。

完成は1795年3月で、初演は同年3月29日にウィーンのブルク劇場で開催された慈善演奏会にて行われました。この演奏会では、ベートーヴェン自身がピアノ独奏を務めており、これは彼にとってウィーンでの公式な音楽活動における最初の重要なデビューとなりました。

出版は初演からやや遅れて、1801年12月にライプツィヒのホフマイスター・ウント・キュネル社から行われました。作品番号が第1番より後に付与されたのは、楽譜の出版が第1番よりも約9ヶ月遅くなったためと言われています。出版の際、ベートーヴェンは出版社に対して「ピアノパートがまだ書き上がっておらず、今やっと書いた」と記した手紙を送っており、作品完成後も改訂作業が続けられていた可能性や、当時の彼の多忙ぶりを伺わせるエピソードとして知られています。この協奏曲は、ウィーンの宮廷顧問官であったカルル・ニクラス・フォン・ニケルスベルクに献呈されました。

改訂の経緯は複雑です。

1. 初稿（1786年頃〜1790年頃）: ボン時代に形作られた初期の版です。
2. 第2稿（1793年）: ウィーンにて改訂。終楽章として変ロ長調のロンド（WoO.6）が計画され、この年には演奏もされました。
3. 第3稿（1794年〜1795年）: ウィーンにて再度改訂。第2稿で用いられたロンド楽章（WoO.6）はここで除外され、現在知られている第3楽章が代わりに作曲されました。この版で初演が行われています。また、第1楽章の一部やピアノパートにも変更が加えられました。
4. 第4稿（1798年）: 決定稿と位置づけられています。ベートーヴェンが3度目のプラハ訪問中の1798年10月に最終的な手直しが施されました。この版の初演はプラハで行われました。

自身によるカデンツァも存在します。これは81小節からなり、後援者であったルドルフ大公のために1809年頃に書かれたとされています。

この協奏曲は、伝統的な3楽章構成をとっています。演奏時間は約28分です。

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ: 変ロ長調、4分の4拍子。オーケストラの提示部と独奏ピアノが登場する協奏風ソナタ形式で書かれており、若々しい活力と優雅さが融合した楽章です。
第2楽章 アダージョ: 変ホ長調、4分の3拍子。緩徐楽章であり、深みのある美しい旋律が特徴です。変奏曲形式が用いられています。
* 第3楽章 ロンド.モルト・アレグロ: 変ロ長調、8分の6拍子。快活なロンド形式による終楽章で、ユーモアと躍動感にあふれています。

全体として、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番は、彼が古典派様式を習得し、自身の音楽語法を確立していく過程を示す貴重な作品であり、初期の溌剌とした魅力を湛えています。

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