ピアノ線

ピアノ線とは

ピアノ線は、炭素鋼を材料とした金属線で、特に強度が高いものを指します。この高い強度と弾性率が、ピアノの弦をはじめ、様々な分野での利用を可能にしています。一般的には「硬鋼線」と呼ばれることもあり、引張強度に優れた高級高張力鋼線の一種です。

ピアノ線の特性

ピアノ線の最も重要な特性は、その高い弾性率です。これは、力を加えて変形させても、力を取り除くと元の形に戻る性質を表します。この特性により、ピアノ線は、以下のような用途で活用されています。

ばね材料: ベッド、建築用シャッター、自動車シートなどのばねとして、その伸縮性を活かして利用されます。
コンクリート補強: 多少の伸び縮みを吸収する性能が求められるコンクリート補強材として、プレストレストコンクリートに用いられます。
* 長大橋のケーブル: 高い引張強度と耐久性が求められる長大橋のケーブルにも採用されています。

製造方法

ピアノ線は、炭素含有量の多い特殊鋼を熱間圧延で鋼線にした後、さらに熱処理を施すことで製造されます。この工程により、ピアノ線は高い強度と弾性率を獲得します。

加工について

ピアノ線は非常に硬いため、手作業での加工は困難な場合があります。しかし、その強度と耐久性から、工作材料としても利用されています。

ピアノ線の利用

プレストレスト・コンクリート

ピアノ線は、プレストレスト・コンクリートの圧縮力を与えるPC鋼材として重要な役割を果たします。コンクリートは圧縮力には強いものの、引張力には弱いという性質を持っています。そこで、あらかじめ引張力を加えたピアノ線を用いることでコンクリートに圧縮力を与え、外部からの引張力を相殺し、より強固な構造物を実現しています。この技術は、鉄道のPC枕木などにも利用されています。

ピアノの弦

ピアノ線の語源は、ピアノの弦に使用されることに由来します。しかし、ピアノの弦に炭素鋼が用いられるようになったのは19世紀後半以降で、それ以前は低炭素鋼の鉄線や真鍮線が使われていました。ピアノ用のピアノ線は、特に「ミュージックワイヤー」と呼ばれ、音の均一性を保つために真円度が高く、巻線加工で割れないこと、チューニングピンに巻き付けても曲げに耐えられる強度など、工業用のピアノ線よりも高い品質が求められます。

軍事利用

第二次世界大戦中、ピアノ線は軍需物資として広く利用されました。航空機の操縦索、エンジンのバルブスプリング、機関銃のバネ、気球の係留索など、様々な用途で利用されました。戦前は、スウェーデンから輸入に頼っていましたが、日米開戦によって輸入が途絶え、日本国内で国産化が急務となり、神戸製鋼によって国産化が成功しました。また、ソ連はノモンハン事件で対戦車障害物としてピアノ線を使用したという説がありますが、実際には軟鋼線が使われていたという証言があります。また、絞首刑の道具として用いられたという事例も存在します。

その他の利用

ピアノ線は、ハンマー投げの球体と取手を繋ぐ鋼線にも使われています。また、特撮の模型を吊り下げるための操演にも用いられ、円谷プロダクションでは、ピアノ線が映像に映り込むと、円谷英二氏に釜飯を奢るという習慣があったそうです。

ピアノ線の規格

ピアノ線は、日本産業規格（JIS G 3522）によって規格が定められています。この規格では、A種、B種、V種の3種類が定義されています。

まとめ

ピアノ線は、その高い強度と弾性率から、様々な分野で重要な役割を果たしています。ピアノの弦としての用途にとどまらず、建築、自動車、軍事、スポーツなど、私たちの生活を支える様々な分野で活用されていることがわかります。その歴史を振り返ると、技術の進歩と共に、より高度な品質が求められるようになり、現代社会において、欠かせない素材となっていると言えるでしょう。

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