ピエトロ・ヴィエルコウッド

イタリア出身の元サッカー選手、ピエトロ・ヴィエルコウッドは、1959年4月6日にカルチナーテで生まれました。主にセンターバックとしてプレーし、その並外れた身体能力と徹底したプロフェッショナリズムから、「鉄壁のディフェンダー」「現代アスリートの先駆者」と称されました。特に、41歳という高齢までイタリア最高峰のセリエAでハイレベルなパフォーマンスを維持したことは特筆に値します。ディエゴ・マラドーナをして「超人ハルクのようだ」と言わしめたその守備能力は、多くのチームの成功に貢献しました。

選手キャリア

ヴィエルコウッドの父はウクライナ出身の軍人で、第二次世界大戦中に捕虜としてイタリアに移送された後、そのままイタリアに定住しました。少年時代のヴィエルコウッドは、配管工として働きながらサッカーの技術を磨きました。当初は俊足を生かして右ウイングとしてプレーしていましたが、目立った成果が出せず、ディフェンダーへとコンバートされます。

16歳頃から様々なクラブのトライアウトに参加し、ACミランのテストではその能力を示しましたが、当時のチーム事情から入団には至りませんでした。しかし、運命は皮肉なもので、彼がキャリア終盤にACミランに加入するのは、この時以来21年も後のことになります。

セリエDのASDロマネーゼでプレーしていた1976年、カルチョ・コモとの練習試合での活躍が注目され、コモへ移籍しプロの道を歩み始めます。コモで身体能力に秀でたセンターバックとして頭角を現すと、1980-81シーズンにはUCサンプドリアへステップアップし、セリエAデビューを果たしました。しかしチームはセリエBに降格したため、セリエAでのプレーを続けるべくフィオレンティーナ（1981-82）とASローマ（1982-83）へレンタル移籍します。特にローマでは、ファルカンやブルーノ・コンティといった名選手と共に1982-83シーズンのスクデット獲得に大きく貢献し、イタリアのスポーツ誌によるシーズン最優秀選手にも選ばれるなど、キャリア初期のハイライトの一つとなりました。本人はローマ残留とチャンピオンズカップでのプレーを希望していましたが、契約上の都合でサンプドリアへの復帰が決まります。

1983年にサンプドリアへ復帰してからは、実に12シーズンにわたってクラブに在籍し、キャリアの大部分をこのジェノヴァのチームで過ごしました。ヴヤディン・ボシュコフ監督の下、ジャンルカ・ヴィアリやロベルト・マンチーニらと共に黄金期を築き上げます。1989-90シーズンのUEFAカップ初優勝、1990-91シーズンのクラブ史上初のセリエA優勝、そして1991-92シーズンのUEFAチャンピオンズカップ準優勝といった輝かしい成績に貢献しました。サンプドリアに長期間留まった理由として、ヴィエルコウッド自身が会長のパオロ・マントヴァーニに対し、タイトルを争えるチームへの強化を強く求めたこと、そして会長がその期待に応えてくれたことを挙げています。また、1990年にACミランから獲得オファーが届いた際も、会長やチームメイトに正直に打ち明け、残留を選択するなど、チームとの強い絆で結ばれていました。1993-94シーズンのコッパ・イタリア決勝では自ら得点を挙げ、優勝に貢献しています。サンプドリアでは公式戦通算493試合に出場し、39得点を記録しました。

1995年にはユヴェントスへ移籍し、サンプ時代の盟友ヴィアリと再びチームメイトとなります。ここでは僅か1シーズンのみの在籍でしたが、1995-96シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ決勝で先発フル出場し、アヤックスの攻撃を封じ込める活躍で優勝に貢献しました。その後、ペルージャへの移籍が一旦決まりながらも監督との関係で破談となり、負傷したフランコ・バレージの代役としてACミランに加入します。タバレス監督時代は出場機会に恵まれませんでしたが、アリゴ・サッキ監督就任後は主力としてプレーしました。

キャリア最後のクラブとなったのはピアチェンツァです。1997年に加入すると、最初の2シーズンは円熟味を増したプレーを披露しました。1999年5月23日には、サレルニターナ戦で40歳47日でのゴールを記録。これは当時、シルヴィオ・ピオラに次ぐセリエA歴代2位の最年長得点記録でした。40歳を超えてもなおセリエAの舞台で戦い続けましたが、所属チームのセリエB降格が決まった2000年に、41歳で現役を引退しました。セリエA通算出場数は562試合（2023年時点で歴代7位）、公式戦通算では873試合という驚異的な記録を残しています。

イタリア代表

イタリア代表としては、1981年 1月16日のオランダ戦で国際舞台にデビューしました。1982年のFIFAワールドカップではメンバーに選ばれましたが、出場機会はありませんでした。しかし、大会後にレギュラーに定着し、1986年大会では全4試合に出場。一時代表から遠ざかりますが、母国開催となった1990年大会の直前に復帰し、3試合に出場しました。1993年 5月1日のワールドカップ予選、スイス戦が代表でのラストマッチとなり、国際Aマッチ通算45試合に出場し2得点を記録しました。

評価とプレースタイル

ヴィエルコウッドは本来ストッパータイプのディフェンダーでしたが、SSCナポリとの対戦では、しばしば「神の子」ディエゴ・マラドーナのマンマークを任されるほど、一対一の守備に絶対的な自信を持っていました。マラドーナ本人も彼を高く評価しており、「君は色は緑ではないが、超人ハルクの様だ」と述べ、自身の著書でもヴィエルコウッドを「インターセプトの名手で、足技は脅威。猟犬タイプだが、岩の壁の様であり、すごい勢いでボールを奪うと味方に正確なパスを繋いでいた。またマークも一流であった」と、その守備能力を絶賛しています。彼の驚異的な身体能力、的確な予測とインターセプト、そして激しいながらもクリーンな守備は、多くのフォワードにとって大きな脅威でした。

引退後

現役引退後は指導者の道に進み、セリエC1のカルチョ・カターニア（2001年）、セリエC2のフロレンティナ・ヴィオラ（現ACFフィオレンティーナ、2002年）、セリエBのUSトリエスティーナ（2005年）といったイタリア国内のクラブや、ハンガリーのブダペスト・ホンヴェードFC（2014年）で監督を務めました。しかし、いずれのチームでも成績不振により短期間で解任されるなど、指導者としてのキャリアは選手時代のような成功を収めることはできませんでした。

ピエトロ・ヴィエルコウッドは、その驚異的なフィジカルと徹底した自己管理、そして長きにわたりセリエAの最前線で活躍し続けた稀有なキャリアから、サッカー史において特異な存在として記憶されています。

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