ピエール・ジョゼフ・プルードン

ピエール・ジョゼフ・プルードン：生涯と思想

ピエール・ジョゼフ・プルードン (1809-1865) は、フランスの社会主義者、無政府主義者であり、「無政府主義の父」と呼ばれる重要な思想家です。彼は、体系的な教育を受けずに独学で経済学や政治学を学び、独自の鋭い社会批判を展開しました。

波乱に満ちた生涯

プルードンは、フランス東部のブザンソン近郊で醸造職人・樽製造職人の家に生まれました。幼少期から宿屋の仕事に従事し、コレージュに通うも、学業を完全に修了することはありませんでした。19歳からはブザンソンの印刷所で校正係として働き始め、この経験が彼の思想形成に大きく影響を与えます。ラテン語聖書の校正を通じて神学、そして独学でヘブライ語や言語学を習得するなど、並外れた学習意欲と能力を示しました。

1837年、最初の著作『一般文法論』を自費出版。奨学金を得てパリに遊学し、1839年には『日曜礼拝論』を発表しますが、財産平等の社会改革思想を訴えたその内容は聖職者会議から忌避され発禁処分となりました。翌年には、彼の代表作となる『財産とは何か』を発表。有名な「財産、それは盗奪である」という過激な言葉を含むこの著作は、ブザンソン・アカデミーから出版認可を取り消されますが、彼は撤回を拒否しました。その後も財産に関する論文を次々と発表し、当局から度々弾圧を受けました。

1843年、印刷所の仕事を辞め、リヨンの商会で事務員・法律顧問として働きます。この間も経済学者との交流を続けながら、『人類社会における秩序の創造』（1843年）、『経済的矛盾の体系、または貧困の哲学』（1846年）などを出版。ロシアの無政府主義者バクーニンや、後の共産主義者となるマルクスとも親交を結び、マルクスとはヘーゲル弁証法を巡って徹夜で議論したと言われています。しかし、マルクスからの共産主義通信員への誘いを、マルクスの教条主義や権威主義への懸念から留保したことが、両者の関係悪化の始まりとなりました。

1848年の二月革命では、テュイルリー宮殿の無血占領に参加し、新聞を発行して人民銀行や相互主義的交換組織を構想。国民議会議員に選出されるも、ルイ・ナポレオン大統領を批判したことで投獄され、獄中で結婚、出産、そして『一革命家の告白』（1850年）、『十九世紀における革命の一般理念』（1851年）などの重要な著作を執筆しました。出獄後も、著作が当局に押収され、再び投獄、亡命を余儀なくされます。晩年は「連合主義」という思想を提唱し、あらゆる中央集権的な組織への警戒を訴えました。1865年、パリで心臓病により死去しました。

プルードンの思想

プルードンの思想は、マルクスのように体系的ではありませんでした。そのため、マルクス自身による激しい批判（ただし、プルードンへの誤解に基づくものも多い）をはじめ、様々な角度から批判の対象となりました。

彼の思想の特徴としては以下のような点が挙げられます。

財産批判と小財産の擁護: プルードンは財産制度一般を批判する一方で、小規模な私有財産は容認していました。この矛盾点も、彼の思想を巡る議論の的となりました。
女性観: 家庭生活における女性の役割を重視し、婦人参政権を否定するなど、保守的な考えを持っていました。
ナショナリズム: フランス人としてのナショナリズムを克服しきれていなかったことも批判の対象となっています。
労働運動: 労働者のストライキを犯罪とみなすなど、労働運動への理解は必ずしも深くなかった。

しかし、プルードンは民衆とブルジョアジーの両者の立場を理解しようとする努力をし、不偏不党の視点から社会的矛盾を捉えようとしていました。また、ジャーナリスト・パンフレット作家としての才能に優れ、簡潔で雄弁な文章で社会批判を展開しました。彼の思想は、後のジョルジュ・ソレルをはじめとするフランスの社会主義者・無政府主義者たちに受け継がれ、今日の社会にも影響を与えています。

主な著作

プルードンは膨大な著作を残し、その多くは日本語に翻訳されています。代表的な著作として、『財産とは何か』『経済的矛盾の体系、または貧困の哲学』『十九世紀における革命の一般理念』『一革命家の告白』『労働者階級の政治的能力』などが挙げられます。これらの著作は、今日でも世界中で読まれ、議論されています。

今日における意義

プルードンの思想は、その体系性の欠如や矛盾点にもかかわらず、今日でも多くの議論を呼び起こしています。特に、中央集権的な組織への警戒を訴えた彼の「連合主義」は、現代社会における様々な問題を考える上で重要な示唆を与えてくれます。彼の生涯と思想は、社会変革を目指す人々にとって、常に学び続けるべき重要な課題であり続けていると言えるでしょう。

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