ピエール・モンタン・ベルトン

ピエール・モンタン・ベルトン（Pierre Montan Berton, 1727年1月7日 - 1780年5月14日）は、18世紀後半のフランス音楽界において、作曲家、指揮者、そして重要な劇場運営者として多角的に活躍した人物です。後の世代に作曲家として名を遺したアンリ・モンタン・ベルトンの父としても知られています。

ベルトンはフランス北部のサンリスに生まれ、若くしてオルガン演奏と作曲の研鑽を積みました。その才能は早くから認められ、南仏の港湾都市ボルドーにあるグランド・テアトルで指揮者としてのキャリアを本格的にスタートさせます。地方での経験を積んだ後、フランス音楽の中心地であるパリへと活動の場を移しました。

パリでは、権威あるパリ・オペラ座において、その運営と芸術を司る主要ポストを歴任しました。特に指揮者としては、1767年から1769年にかけて、同時代の音楽家ジャン＝クロード・トリアルと共同で指揮台に立ち、その手腕を発揮しました。その後、1775年から1777年には単独でオペラ座の指揮者を務め、上演される作品の音楽面を統括しました。彼のキャリアは順調に進み、1775年には王宮の芸術監督という名誉ある役職も兼任するようになります。そして、その劇場運営と指導力が高く評価され、死去する年である1780年には、ついにパリ・オペラ座の総支配人という最高責任者の地位に就任しました。

ベルトンがオペラ座で中心的な役割を担っていた時期は、ちょうどフランス・オペラ史における大きな転換期にあたります。オーストリア出身のクリストフ・ヴィリバルト・グルックと、イタリア出身のニッコロ・ピッチンニという二人の巨匠が登場し、オペラにおける劇と音楽の関係性、様式について論争を巻き起こし、革新的な作品を発表していました。ベルトンは、この「グルック派」と「ピッチンニ派」と呼ばれる音楽史上の重要な対立と創造の時代に、劇場の管理者として深く関与し、彼らの作品上演を支える立場にありました。

管理者としての手腕が高く評価される一方で、ベルトン自身も作曲家としてオペラ作品を手がけています。自身の作品としては、1764年に発表された1幕形式のパストラル・エロイック『Érosine』や、1775年の『Cythère assiégée』などが挙げられます。これらの作品は、当時のフランス・オペラにおける抒情的かつ英雄的なスタイルを取り入れたものです。また、オペラ以外の作品では、1762年に作曲された『新しいシャコンヌ ホ短調（Nouvelle Chaconne en mi mineur）』が特筆されます。この作品は、後のルイ18世の時代にも「ルブレトン・シャコンヌ」として広く知られていたことが伝えられており、彼の作曲家としての才能を示す一例となっています。

彼の作品リストには、当時の慣習として、複数の作曲家による共作が多く見られます。例えば、初期の作品では、1749年の3幕形式のパストラル・エロイック『Sylvie』が、ピエール・ド・ラ・ガルドやジャン＝クロード・トリアルとの共同制作によるものです。1755年の1幕バレエ『Deucalion et Pyrrha』はフランソワ＝ジョゼフ・ジローとの共作であり、神話上の大洪水を題材としています。再びジャン＝クロード・トリアルとの共同作業となった1767年の1幕パストラル・エロイック『Théonis, ou le Toucher』、そして1769年の5幕形式の『Linus』は、アントワーヌ・ドーヴェルニュやトリアルと共に手がけたリリック悲劇であり、当時のフランス音楽劇場の主流形式でした。これらの共同作品は、当時の劇場における大規模な作品制作が、複数の作曲家や音楽家が協力して行われていた実態を物語っています。

ピエール・モンタン・ベルトンは、作曲家としての一定の評価に加え、特に指揮者、音楽監督、そして総支配人として、18世紀後半のパリ・オペラ座を支えた功績は大きいと言えます。彼は、グルックやピッチンニといった改革者たちの活躍を側面から支え、フランス音楽史の重要な一時期において、劇場の舞台裏からその発展に寄与した、影響力のある人物でした。

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