ピエール・ルヴェー

ピエール・ルヴェー：伝説のレーサーとル・マンの悲劇

ピエール・ルヴェー（本名：ピエール・ウジェーヌ・アルフレ・ブイヨン、1905年12月22日-1955年6月11日）は、フランスのマルチアスリートにして、レーシングドライバーとして名を残した人物です。アイスホッケーの国際試合出場経験を持ち、テニスやヨットでも高いレベルの腕前を誇っていました。しかし、彼の名は今日、主に1952年のル・マン24時間レースにおける偉業への挑戦と、1955年のル・マン24時間レースでの悲劇的な事故によって知られています。

幼少期とレーサーへの道

ルヴェーは、アルザス出身の叔父の影響でレーサーを志しました。叔父はパリで公道レースに参戦し、勝利を収めていたのです。少年時代から叔父の活躍を耳にして育ったルヴェーは、第一次世界大戦後の困難な状況の中でもレーサーになる夢を諦めませんでした。自動車修理工場に就職し、チューニング技術を磨き、高い評価を得るようになります。この頃、叔父の姓「ヴェグール（Veghle）」を元に「ルヴェー（Levegh）」と改名しました。

1923年、彼は第一回ル・マン24時間レースを観戦し、その魅力にとりつかれました。ル・マン24時間レースは、以後ルヴェーにとって特別な存在となります。しかし、出場機会はなかなか訪れませんでした。その間、彼はブラシ製造業を始めたり、様々なスポーツに親しんだりするなど、幅広い興味関心を抱いていました。

ル・マン24時間レースへの挑戦

1938年、タルボはル・マン24時間レースに6台のワークスマシンを投入しました。ルヴェーは、ジャン・トレヴォーのセカンドドライバーとして出場機会を得ましたが、マシントラブルによりリタイヤという結果に終わりました。

1939年もル・マン24時間レースに出場するも、リタイヤ。その後、第二次世界大戦の影響でル・マン24時間レースは10年間開催されませんでした。

戦後、1949年にはチェコグランプリで4位に入賞。1950年にはフォーミュラ1にデビューを果たしました。しかし、ル・マン24時間レースへの出場は叶いませんでした。

1951年、ルヴェーはル・マン24時間レースにタルボ・ワークスチームの一員として出場し、4位で完走を果たしました。

1952年、ルヴェーは私財を投じてマシンを準備し、ル・マン24時間レースに臨みました。彼はピットストップで交代を拒否し、単独で長時間に渡って運転を続けました。トップを快走していましたが、疲労のためギアチェンジをミスし、エンジンブローでリタイアしました。この時の彼の走り、そしてその後のルール変更（1ドライバーあたりの最長運転時間制限）は、彼の伝説を語る上で欠かせないエピソードです。

1953年にはメルセデス・ベンツから出場オファーはありませんでしたが、タルボから車両提供を受け、8位で完走しました。1954年はタルボの車両で出場しましたが、ブレーキ故障によりクラッシュ、リタイヤという結果に終わりました。

1955年ル・マン24時間レースと悲劇

1955年、ル・マン24時間レースにメルセデス・ベンツが300SLRで復帰しました。1952年の約束を思い出したアルフレート・ノイバウアー（メルセデス・ベンツ監督）は、ルヴェーに出場を打診。ルヴェーはメルセデス・ベンツのオファーを受け入れました。しかし、練習走行では他のドライバーより遅く、マシンを乗りこなせていないと見られていました。

レース中、ルヴェーの車はマイク・ホーソーンのジャガー・Dタイプとランス・マックリンのオースチン・ヒーリー100Sの事故に巻き込まれ、200km/h以上の速度で宙を舞い、グランドスタンドに激突、炎上しました。この事故により、ルヴェーを含む80人以上が死亡するという、レース史上最悪の大惨事となりました。

ルヴェーの死は、モータースポーツ界に大きな衝撃を与え、メルセデス・ベンツはモータースポーツ活動を一時中断しました。スイスでは、ラリーやヒルクライム以外のレースが禁止されました。

ピエール・ルヴェーの生涯は、卓越した才能と並々ならぬ情熱、そして悲劇的な最期という、ドラマチックな物語です。彼の名前は、ル・マン24時間レースの歴史に、永遠に刻み込まれることでしょう。

もう一度検索