1952年のル・マン24時間レース

1952年のル・マン24時間レースは、フランスのサルト・サーキットで、6月14日から15日にかけて開催されました。このレースは、20回目の開催であり、多くのドラマと伝説が生まれたレースとして知られています。

この年の注目点は、メルセデス・ベンツの初参戦でした。当時、圧倒的な強さを誇っていたメルセデス・ベンツの参戦は、レース全体のレベルを格段に向上させました。さらに、フランス人ドライバー、ピエール・ルヴェーの活躍も大きな話題となりました。彼は、タルボワークスの主張を退け、自費で車を改造してレースに臨みました。その投資額は優勝賞金の3倍にも上ったと言われています。ルヴェーの情熱と執念は、多くの人々を魅了しました。

レース前日には、25万人を超える記録的な観客がサルト・サーキットに詰めかけました。その熱気は、オートスポーツ誌が報じたホテルでのエピソードにも表れています。ホテルでは法外な料金が請求され、苦情が殺到したため、警察がホテルを封鎖する騒ぎまで起きたとのことです。

決勝日は快晴に恵まれ、57台の車がスタートしました。レースは序盤から白熱し、フェラーリのアンドレ・シモンが周回記録を更新しました。しかし、ジャガー・Cタイプはオーバーヒートの問題を抱え、次々とリタイヤしていきました。フェラーリもクラッチトラブルに悩まされ、優勝候補の一角であったアルベルト・アスカリもリタイヤを余儀なくされました。

レース中盤では、フランス人ドライバー、ロベール・マンゾンの駆るゴルディーニが先頭集団を引っ張りました。しかし、2時間経過した時点で、シモンのフェラーリ、マンゾンのゴルディーニ、そしてルヴェーのタルボが上位を争う展開となりました。5時間経過した頃には、マンゾンがトップに立ち、2位にはルヴェーがつけていました。フランス人ドライバーの活躍に、観客は熱狂しました。

未明には、メルセデス・ベンツが電気回路のショートによりリタイヤするアクシデントが発生しました。この事態に、メルセデス・ベンツの開発エンジニアであるウーレンハウトは、激昂し、ロバート・ボッシュの代表者を追いかけ回したと言われています。

レース終盤、マンゾンのゴルディーニがブレーキトラブルでリタイヤすると、ルヴェーがトップに躍り出ました。ルヴェーは、チームメイトであるルネ・マルシャンとの交代を拒否し、一人で走り続けました。しかし、疲労困憊の彼は、残り時間1時間15分のところでギアチェンジに失敗し、エンジンを壊してリタイヤを余儀なくされました。ルヴェーは、レース結果も聞かずにピットで2時間眠りこけてしまったそうです。

最終的に、完走したのは17台でした。優勝は、ヘルマン・ランクとフリッツ・リース組のメルセデス・ベンツ・300SLでした。平均速度155.575km/hで24時間で3733.800kmを走行し、メルセデス・ベンツとドイツ勢の初優勝となりました。

この年のメルセデス・ベンツ監督、アルフレート・ノイバウアーは、ルヴェーの健闘を称え、翌年のル・マンにメルセデス・ベンツの車を運転するよう約束しました。この約束は1955年に実現することとなります。また、このレースをきっかけに、ドライバーの運転時間を制限するルールが制定されることとなりました。ルヴェーの走り、そして、このレースは多くの伝説を残しました。

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