ピカレスク 人間失格

ピカレスク 人間失格：文豪太宰治の生涯を描いた衝撃作

2002年7月27日、映画『ピカレスク 人間失格』が公開された。猪瀬直樹の著作『ピカレスク-太宰治伝-』を原作とする本作は、昭和を代表する文豪、太宰治の生涯を克明に、そしてドラマチックに描く。配給はジーピー・ミュージアムとドラゴン・フィルム、制作はグランプリが担当した。

キャッチコピーは「死のうとする太宰ではなく生きようとする太宰を描いた」 と謳われ、太宰治の代表作『人間失格』を映画化した作品ではない点が強調されている。しかしながら、映画のテーマは太宰治の生涯そのものであり、その暗く激しい人生を余すことなく描き出している点が大きな特徴だ。

映画は、玉川上水での男女の入水自殺という衝撃的なシーンから始まる。自殺したのは作家・太宰治と美容師・山口富美栄。河村隆一が演じる太宰は、酒と女に溺れ、破滅的な道を歩む。青森での生い立ちから東京帝大時代、作家・井伏鱒二との出会い、内縁の妻・初枝との関係、そして数々の女性たちとの奔放な恋愛、そして最後は妻と愛人に死を告げて物語は終わる。極めてハードで、観る者の心を深くえぐるような重苦しい内容となっている。

主演を務めたのは、ミュージシャンの河村隆一。当時「平成のナルシスト」と呼ばれていた河村が、「昭和のナルシスト」太宰治を演じたことで、大きな話題を呼んだ（goo映画より）。河村の演技については、高く評価する声と、演技力の未熟さを指摘する声とが真っ二つに分かれた。映画全体についても、その暗く重いテーマ性が、賛否両論を巻き起こした。

しかしながら、映画のクオリティを語る上で、重要な要素となったのがロケ地である。2001年秋には、太宰治ゆかりの地である富士五湖や鎌倉などでオールロケが行われた。こうしたこだわりが、映画の世界観をより深く、リアルなものにしている。

映画には、原作者である猪瀬直樹自身も特別出演している他、佐野史郎、さとう珠緒、とよた真帆ら実力派俳優が脇を固める。太宰を取り巻く女性たちは、実在の人物をモデルとしているものの、名前は変更されている。例えば、戸山初枝は小山初代、大田静は大田静子、田辺なつみは田部シメ子、西原（津島）佐知子は津島美知子、山口富美栄は山崎富栄をそれぞれモデルとしている。その他の男性出演者は、ほぼ実名で登場するものの、木館善次郎は小館善四郎のもじりである。

監督の伊藤は、以前から河村隆一のコンサートに通うなど、河村に注目していたという。太宰治の生涯を描く映画の監督の話が来た際、主演に適任の人物はいないかと探し求めていた中で、河村のライブを見て、「歌い始めると歌の世界に入っていく河村の姿が太宰に似ている」と感じ、オファーに至ったと語っている。

主演の河村自身も、オファーを受けた当初は「僕は芝居はできない。だから、太宰になりきるために太宰の話をたくさんしましょう！」と監督に言ったというエピソードも残っている。

『ピカレスク 人間失格』は、太宰治という複雑で魅力的な人物像を、様々な角度から描き出した作品だと言えるだろう。その賛否両論を巻き起こした点も、この映画を語る上では重要な要素である。河村隆一の演技、映画のテーマ、そしてロケ地など、様々な視点から、この映画を鑑賞することで、太宰治という人物、そしてその時代への理解を深めることができるだろう。

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