ピクトリアリスム

ピクトリアリズムについて

ピクトリアリズム（英: pictorialism、仏: pictorialisme）は、1885年頃から1914年までの間に流行した写真のスタイルであり、特に乾板写真の普及によって広まりました。この芸術的傾向は、写真を単なる再現の手段としてではなく、表現の一形態として捉え、絵画的な感性を重視した点が特徴的です。

歴史的背景

19世紀、技術の進化に伴い、カメラを用いた芸術表現に対する関心が高まりました。これは、科学者たちと写真師たちが同じく写真技術を扱う中で、芸術的な側面が軽視されていると感じたことに由来します。イギリスでは「リンクトリング」というグループが、この潮流をリードし、アメリカではアルフレッド・スティーグリッツがその中心人物として活動しました。彼自身のスタイルはやがてストレート写真に傾倒しましたが、当初はピクトリアリズムに積極的に関わりました。

ジョン・カウフマンは、彼の写真が新聞において芸術作品として評価されるなど、ピクトリアリズムの重要な存在となりました。その後、ローズ・シモンズなどの新たなアーティストたちも加わり、ピクトリアリズムは多様な表現を生み出しました。

しかし、1910年ごろからストレートフォトグラフィが広まると、ピクトリアリズムは批判の対象となりました。特に、その手法が絵画の模倣に過ぎないとされ、従来のスタイルは次第に勢いを失っていきます。ストレートフォトの論者たちは、ピクトリアリズムを画面をぼかし、絵画的構図を持つものとして批判しましたが、アルフレッド・ホースリー・ヒントンは、印象派絵画の理論を取り入れた反論を展開し、写真の本質に迫ろうとしました。

ピクトリアリズムの特徴

ピクトリアリズムは、いくつかの独特な特徴を持っています。最も顕著な点は、空気遠近法の意識です。これは、近景にははっきりしたコントラストを持つ要素を置き、遠景はあえて曖昧に表現することです。これにより、観る者に特定の感情や雰囲気を伝えることを試みます。

また、風景写真では、実際の地平線の位置を厳密に合わせた上で、雲などを合成し、意図的に美しさを強調します。さらに、過剰な細部を省略して、特定のモティーフや感情に焦点を当てる手法が用いられます。こうしたデザイン的なアプローチが、ピクトリアリズムをユニークなスタイルにしています。

関連するテーマ

ピクトリアリズムは、写真史や芸術写真の中で重要な位置を占めており、特にフリーハンドデッサンのような形での表現を追求するフォト・セセッションや、名だたる写真家たち（ハインリッヒ・キューン、カール・ストラス、ルドルフ・デュールコープ）との関連性を持っています。また、ピクトリアリズムの後に登場するストレートフォトグラフィとも密接に関わり、できるだけリアルな表現を求める動きとは対照的な存在でした。上田竹翁のような日本の写真家も、この潮流の一端を担い、国際的な視点での表現を模索しました。

このように、ピクトリアリズムは単なる写真技術の流行にとどまらず、芸術としての写真に新しい次元をもたらした重要な潮流であったと言えるでしょう。

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