ピッツィガーノ兄弟

ピッツィガーノ兄弟の海図

ドメニコ・ピッツィガーノとフランチェスコ・ピッツィガーノという兄弟は、14世紀のヴェネツィア共和国において著名な地図製作者として知られています。彼らの作品は、特に1367年に制作された羅針儀海図においてその名が広まりました。この地図は現在、パルマのビブリオテーカ・パラティーナに所蔵されています。

1367年の海図

ピッツィガーノ兄弟の1367年の海図は、横138cm、縦92cmというサイズを持ち、当時の最大の地図とされています。この地図は、地中海や黒海のみにとどまらず、大西洋の広い範囲や、北方のスカンジナビア半島やバルト海、カスピ海までも描かれていることが特徴です。この点において、同時代の地図と異なり、その範囲を大きく超えていたのです。

地図の縁には「MCCCLXVII. Hoc opus compoxuid franciscus pizigano veneciar et domnus pizigano In Venexia meffecit marcus die XII decembris.」という注記があり、一般的には兄弟であるドメニコとフランチェスコの名を指していると解釈されています。ただし、それに対する解釈は多様で、フランチェスコはドメニコの兄弟ではなく子供だったのではないかという意見や、著者としてマルコやジェラルドの名が挙がっていることも指摘されています。

カナリア諸島の描写

海図ではカナリア諸島についても非常に詳細に描かれており、8つの島が表現されています。これは、1339年のアンジェリーノ・ドゥルチェルトの海図以降の知識を反映しており、実際のカナリア諸島の北には空想上のフォルトゥーナ諸島が描かれています。また、伝説上のブラジル島も描かれており、実在の地理とは異なる空想の世界を反映した要素が強いです。

伝説となる島々

歴史家たちは、ピッツィガーノ兄弟の海図が伝説の島、アンティリア島を最初に描いたものではないかと考えていました。しかし、実際には地図の西端には島の記載はなく、手を広げた男性の姿とともに「ここには、アトゥリアの前に立像が並んでおり...」と記載されています。この解読は、19世紀にはアトゥリアがアンティリア島への最初の言及であるとされましたが、その後の研究により、疑わしい結論に至っています。

黄金の川の描写

海図には伝説の「黄金の川」についても描写があります。この川は「パロルス川」という名前で言及されており、その源は「月の山脈」とされ、エジプトのナイル川とも繋がりがあるとされています。実際に名付けられたこの川は、セネガル川やニジェール川に基づいたものであり、マリ帝国の黄金産出と結びついていると考えられています。

その他の海図

ビブリオテーカ・パラティーナ所蔵の1367年の海図以外にも、ピッツィガーノ兄弟は数点の地図制作に関わったとされます。例えば、ドメニコは1350年製作のパレスチナとシリアの小さな地図、フランチェスコは1373年の地中海の羅針儀海図などがあります。また、ヴェネツィアにおいて、1424年の羅針儀海図を制作したツアン・ピッツィガーノは、彼らの親戚か息子であった可能性が高いとされています。

ピッツィガーノ兄弟の作品は、当時の地図製作において重要な転換点となり、その後の航海探検や地理学に多大な影響を与えました。彼らの地図は、単なる航海の手引きに留まらず、当時の人々の科学的探求心や好奇心を示す貴重な記録となっています。

もう一度検索