マリ帝国

マリ帝国：西アフリカを制した黄金の王国

マリ帝国（1230年代 - 1645年）は、西アフリカ・サヘル地帯に栄えた王国です。マンデ系民族がその基盤を成し、現代のマンディンカ人もその末裔だと自認しています。その歴史は謎に包まれており、首都の位置すら確定していません。

建国と拡大

11世紀に栄えたガーナ王国が衰退した後、ソソ王国が台頭しましたが、13世紀半ば、伝説的な英雄スンジャタ・ケイタがマンデの諸部族を統一し、キリナの戦いでソソ王国を破ってマリ帝国を建国しました。スンジャタは、服属または同盟した各部族の代表者を集め、憲章を制定しました。この憲章は世代を超えて受け継がれ、2009年にはユネスコの世界無形遺産に登録されています。
スンジャタの死後も、後継者たちは領土を拡大し、14世紀には大西洋岸からトンブクトゥ、ガオ、ブレ、バンブクの金鉱地帯にまで勢力を伸ばしました。

最盛期とマンサ・ムーサ

14世紀はマリ帝国の最盛期でした。マンサ・ムーサ（在位：1312年-1337年）の治世は特に有名で、1324年のメッカ巡礼では莫大な量の金を携行し、カイロの金価格を暴落させたという逸話が残されています。マンサ・ムーサはイスラム教を積極的に保護し、学問の中心地となるジンガリベリ・モスクをトンブクトゥに建設しました。
マンサ・ムーサの後継者であるマンサ・スレイマン（在位：1341年-1360年）の治世もマリ帝国は繁栄を続け、1352年にマリを訪れたイブン・バットゥータは、その安全と住民の温かさ、正義感を高く評価しています。

衰退と滅亡

14世紀後半以降、マリ帝国は後継者争いや周辺部族の反乱、ソンガイ王国などの台頭により衰退しました。1433年にはトンブクトゥをトゥアレグ族に奪われ、ニジェール川内陸デルタを喪失。ニジェール川上流域やガンビア川流域を保持しながらも、15世紀後半にはソンガイ王国に覇権を奪われました。16世紀末にはガンビア川流域も失い、内陸国家となりました。
1591年、モロッコのサアド朝がソンガイ帝国を征服すると、その混乱に乗じてマリ帝国は最後の抵抗を試みましたが、1599年のジェンネ攻防戦で敗れ、その後、地方小国家として存続した後、18世紀に滅亡しました。

マリ帝国の首都論争

マリ帝国の首都の所在地は、現在も議論が続いています。イブン・バットゥータは「マリ」と記していますが、イブン・ファドルッラー・ウマリーは首都を「ニアニ」と呼んでいます。
19世紀後半から20世紀にかけて、多くの研究者たちがニアニの場所を特定しようと試みましたが、結論は出ず、近年では宮廷が移動していたという「ノマド型宮廷」説も提唱されています。

経済と社会

マリ帝国の経済はサハラ交易に依存していました。塩、金、銅などの交易が盛んに行われ、ジェンネ、トンブクトゥ、ガオなどの都市が発展しました。一方、国民の大半は農業や漁業に従事していました。通貨は金貨ではなく、布地、タカラガイ、塩などが使われていました。

宗教

マリ帝国はイスラム教を国教としていましたが、伝統的な信仰も併存していました。イスラム教の受容時期や過程については諸説ありますが、少なくとも14世紀にはイスラム国家としての体裁を整えていました。マンサ・ムーサのメッカ巡礼は、帝国の繁栄とイスラム教の普及に貢献しました。

研究史

19世紀、ヘーゲルはアフリカの歴史を軽視する発言を行い、その見方は西洋におけるアフリカ観に影響を与えました。初期のマリ帝国研究は植民地官僚などによって行われ、多くの誤りや捏造が含まれていました。第二次世界大戦後、本格的な歴史学的研究が始まり、ユネスコの『ユネスコ・アフリカの歴史』の刊行はアフリカ史研究の転換期となりました。

史料

マリ帝国の歴史を解明するための史料は、北アフリカのアラブ人やベルベル人が書いたアラビア語文献が中心です。イブン・バットゥータの『リフラ』は特に重要です。また、グリオと呼ばれる吟遊詩人による口承伝統も重要な史料となっています。発掘調査も進められていますが、未だ多くの謎が残されています。

マリ帝国は、西アフリカの歴史における重要な存在であり、その歴史と文化は現代のマリ共和国にも受け継がれています。しかし、その全貌は未だ解明されておらず、今後の研究に期待が寄せられています。

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