ピナトゥボ

ピナトゥボは、アイルランドで生まれ、イギリスで育成されたサラブレッド競走馬である。その競走生活は、デビューから引退まで、数々のドラマと感動に彩られた輝かしいものであった。

2歳（2019年）のシーズンは、まさに衝撃的なデビューだった。5月のメイドン競走で3馬身差の圧勝劇を飾ると、続く2戦目も連勝。そして、ロイヤルアスコット開催のチェシャムステークスでは、強豪を相手に3馬身差をつけ、リステッドレース初勝利を手にした。続くG2ヴィンテージステークスでは5馬身差という圧倒的な強さで重賞初制覇を達成、この勝利により、翌年の2000ギニーの最有力候補に躍り出た。

そして、G1初挑戦となったヴィンセントオブライエンナショナルステークスでは、並み居る強豪を寄せ付けず、2着馬に9馬身差をつける圧勝劇を演じた。この勝利は、馬主と調教師にとって、前年に続く同レース連覇という快挙でもあった。この驚異的なパフォーマンスにより、ピナトゥボは2000ギニー、そしてダービーでも最有力候補と目されるようになった。

3歳（2020年）シーズン、期待を一身に集めた英2000ギニーでは、惜しくも3着に敗れ、キャリア初黒星を喫した。続くセントジェームズパレスステークスでも2着に終わり、連敗の苦杯を舐めた。しかし、7月のジャンプラ賞では、再びG1の栄冠を掴み、G1競走3勝目を達成した。その後、ムーランドロンシャン賞では2着に敗れ、10月9日、現役引退を発表。イギリスのダルハムホールスタッドで種牡馬入りすることになった。

種牡馬としてのキャリアは、2021年からイギリスでスタートし、シーズンオフにはオーストラリアでも繋養された。種付け料は4万4000豪ドルと高額であった。

ピナトゥボの能力の高さを示す指標として、ヴィンセントオブライエンナショナルステークスの圧勝劇を受け、英国競馬統括機構（BHA）からレーティング128が認定されたことが挙げられる。これは、21世紀の2歳馬において最高レーティングであり、フランケルやドリームアヘッドが記録した126を上回る驚異的な数値であった。

調教師であるチャーリー・アップルビーは、ピナトゥボを「私が手掛けた2歳馬の中で最高の馬」と絶賛し、その大人びた性格にも感銘を受けていた。名門ジョン・ゴスデン調教師もまた、ピナトゥボを高く評価しており、ライバルの一頭として挙げていたことは興味深い。

ピナトゥボの血統背景も非常に優れており、4代母の子孫には数々の活躍馬が名を連ねる。フランスオークス優勝馬であるRafhaや、種牡馬として成功したInvincible Spirit、Kodiacなどが含まれる。また、メートリアークステークス勝ち馬Uni、プリティーポリーステークス勝ち馬Chinese White、そしてゴールドカップ勝ち馬Enaad、ブルーダイヤモンドステークス勝ち馬Pride of Dubaiなども、ピナトゥボの血統に繋がる名馬である。さらに、ピットカーンやヴァリィフォージュといった、日本でも著名な種牡馬も血統に含まれ、その優れた遺伝子を受け継いでいたことがわかる。

短いが充実した競走生活、そして種牡馬としての未来への期待。ピナトゥボという名馬は、競馬史にその名を刻み込んだ。

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