ピピン2世 (アクィタニア王)

ピピン2世：動乱の時代を生きたアクィタニア王

ピピン2世（Pippin II, またはPépin II d'Aquitaine, 823年 - 864年以降）は、9世紀のフランク王国、アクィタニア地方の王として、その波乱に満ちた生涯を送りました。父はアクィタニア王ピピン1世、祖父はカロリング皇帝ルートヴィヒ1世という、フランク王国の血筋を受け継いでいます。彼の生涯は、王位をめぐる争い、ヴァイキングとの関わり、そして最終的な没落と、激動の時代を象徴するものと言えるでしょう。

王位をめぐる抗争

838年、父ピピン1世の死後、アクィタニアの貴族たちは、まだ15歳であったピピン2世を王として擁立しました。これは、当時アクィタニアがフランク王国からの独立を強く望んでいたためです。しかし、祖父である皇帝ルートヴィヒ1世は、自身の息子シャルル2世をアクィタニア王としました。父ピピン1世がかつてルートヴィヒ1世に反乱を起こした際、名目上アクィタニア王位を剥奪されていたことが、その理由でした。この対立は、ピピン2世とシャルル2世の間で長きにわたる王位争いを引き起こすこととなります。

ルートヴィヒ1世は、ピピン2世をアーヘンに送って統治の術を教えようとしましたが、アクィタニアの貴族たちはこれを拒否。ルートヴィヒ1世の死後、841年のフォントノワの戦いでは、ピピン2世はロタール1世側に味方し、シャルル2世、ルートヴィヒ2世の連合軍と戦いました。ピピン2世は戦いでシャルル2世を破るものの、ロタール1世が敗北したことで、戦局は不利に。彼はアクィタニアに戻り、シャルル2世との抗争を継続せざるを得ませんでした。

ヴァイキングとの連携と敗北

844年、ピピン2世は、ヴァイキングの指導者ヤール・オスカルを味方につけようとしました。彼はヴァイキングたちをガロンヌ川からトゥールーズまで案内しますが、これは大きな失策でした。ピピン2世は、略奪に適した地域をヴァイキングに容易に偵察させることとなり、後に大きな脅威となる種を蒔いてしまったのです。845年には、皇帝側から離反したボルドー伯セガン2世を迎え、彼がヴァスコニア公サンシュ2世と戦うのを支援しました。サンシュ2世は、ピピン2世の父ピピン1世の敵でもありました。

アクィタニア最大の都市ボルドーは当時シャルル2世の支配下にありましたが、市民やユダヤ教徒、そしてピピン2世を支持する勢力によって、847年にヤール・オスカルに占領されてしまいます。元々酒におぼれ、怠惰な生活を送っていたピピン2世は、ボルドーが異教徒の海賊に奪われたことで、848年までに完全に支持を失いました。この時、ロタール1世の宮廷にいたピピン2世の弟カール（シャルル）がアクィタニア王位を求めたものの、メーヌ伯ヴィヴィアンに捕らえられ、シャルル2世のもとに送られ修道院に入れられました。

851/2年、ついにピピン2世はサンシュ2世に捕らえられ、シャルル2世に引き渡されます。彼はソワソンのサン＝メダール修道院に幽閉され、サンシュ2世は褒賞としてガスコーニュ公の地位を得ました。

脱出、ヴァイキングへの参加、そして死

この頃、シャルル2世と対立していた東フランク王ルートヴィヒ2世は、自身の息子ルートヴィヒ（3世）にアクィタニア王位を要求させました。ルートヴィヒ3世はリモージュまで進軍しましたが、855年に撤退。この混乱に乗じて、ピピン2世は854年に修道院を脱出し、かつての領土の一部を回復しました。シャルル2世は、ロワール渓谷を荒らし回るヴァイキングの対応に追われており、ピピン2世を鎮圧する余裕はありませんでした。

864年、ピピン2世は自らヴァイキングに身を投じました。彼がキリスト教を捨て、オーディン崇拝を始め、ヴァイキングのように暮らしているという噂も流れました。彼はヴァイキングのトゥールーズ襲撃に参加しましたが、結局864年の後半に再び捕らえられました。ピトル勅令によって完全に地位を剥奪されたピピン2世は、サンリスで投獄され、その地で生涯を終えたと考えられています。

ピピン2世の生涯は、カロリング朝の衰退、フランク王国の分裂、そしてヴァイキングの侵入という、激動の時代を映し出しています。彼の野心と失策は、当時のヨーロッパ社会の混乱と変革を物語る重要な一例として、歴史に刻まれています。

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