ヒュラース

ギリシア神話の美少年ヒュラース：ヘーラクレースとニンフの悲恋

ヒュラースは、ギリシア神話に登場する、ヘーラクレースに仕えた美青年です。その美貌は多くの物語で強調されており、悲劇的な最期とともに、後世まで語り継がれる存在となりました。

王家の血を引く美少年とヘーラクレース

ヒュラースの出自は諸説ありますが、ドリュオプス人の王テイオダマースとニンフの娘メノディケーの子、あるいはケーユクスの子と伝えられています。ヘーラクレースはドリュオプス人を討伐した後、幼いヒュラースを連れ帰り、自らの従者として育てました。

ヒュラースは成長するにつれて、ヘーラクレースの信頼厚い弓矢持ちとして活躍するようになります。優れた技能に加え、その並外れた美しさはヘーラクレースの寵愛を一身に集めました。

アルゴナウタイ航海と悲劇的な誘拐

やがてヒュラースは、ヘーラクレースと共にアルゴナウタイの冒険に参加します。キオス島近郊の泉で水を汲んでいた時、悲劇は起こります。

その泉は、ニンフたちがアルテミス神を祭る聖地でした。ヒュラースが水を汲もうとしたその時、水底から現れたニンフたちは、彼の美しさに心を奪われます。そして、ヒュラースの手を掴んで水中に引きずり込みました。

ヒュラースの悲痛な叫び声は、駆けつけたヘーラクレースの仲間、ポリュペーモスに届きますが、すでにヒュラースの姿は見えません。ヘーラクレースは必死にヒュラースを探し求めましたが、発見することはできませんでした。

その間にアルゴナウタイは、風に乗って出航してしまいます。ヘーラクレースはヒュラースの行方不明を嘆きつつ、アルゴナウタイたちと合流すべく旅を続けました。

様々なバリエーションとその後

ヒュラース誘拐の物語は、複数の文献で様々な形で伝えられています。

ヒュギーヌスは、ヒュラースがさらわれた場所をキオス島とアスカニオス河の近辺とし、アルゴナウタイが航海を続けたのはアルゴー船が風に流されたためだと記しています。

ウェルギリウスは、水夫たちがヒュラースの名を呼び続ける声が、岸全体にこだましたという詩的な描写を残しています。

テオクリトスは、ヒュラースをさらったニンフたちとしてエウニス、マリス、ニュケイアの名を挙げ、ヘーラクレースとヒュラースが互いに呼び合う様子を克明に描写しています。

アントーニーヌス・リーベラーリスは、ニンフたちがヒュラースを木霊に変えたという、幻想的な解釈を与えています。

ストラボーンは、ヒュラースを祀る祭祀が後世まで続いたことを記録しており、その狂騒的な様相が伺えます。

ヒュラースの物語が語るもの

ヒュラースの物語は、美しさの儚さと、自然の神秘を鮮やかに描き出しています。ヘーラクレースという強大な英雄さえも救うことができない、運命の残酷さが感じられます。

また、様々な文献による解釈の違いは、物語が時代を超えて人々の心に深く刻まれ、それぞれの解釈を生み出してきたことを示しています。ヒュラースは、ギリシア神話の象徴的な存在として、私たちに様々な感情と問いかけを与え続けています。

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