ピューライクメース

ピューライクメース

ピューライクメース（古希: Πυραίχμης, Pȳraichmēs）は、古代ギリシアの神話や伝承に登場する人物に与えられた名前です。この名前を持つ人物は複数知られていますが、特に重要な二名について以下に詳述します。

パイオニア地方の王

一人目のピューライクメースは、ギリシア北方に位置するパイオニア地方を統治した王として知られています。彼の出自については一説に、現地の主要な河川であるアクシオス河の河神を父とするとの伝承も存在します。

古代ギリシアとトロイアの間で繰り広げられた壮大な物語、トロイア戦争において、このピューライクメースは自らの支配するパイオニアの軍勢を率いてトロイア側を支援するため、遠くアシア（トロイア）まで駆けつけました。彼は戦場において勇猛に戦い、特にギリシア軍が築いた防御壁の内側で発生した激しい混戦、英雄プローテシラーオスの船が置かれていた場所の近辺で奮戦したと伝えられています。

しかし、彼の運命は過酷なものでした。アキレウスの強固な武具を借り受け、友軍を鼓舞するために戦場に立ったパトロクロスが投じた一撃によって、ピューライクメースは右肩を貫かれ、その命を落とすこととなりました。このピューライクメースの討ち死ににより、トロイア側は重要な指揮官を失い、戦況は変化しました。パトロクロスは敵を追い払い、ギリシア軍の船に放たれた火を消し止める活躍を見せました。なお、このピューライクメースを討った人物については異説もあり、別の伝承ではギリシア側の偉大な英雄であるディオメーデースに討たれたとも語られています。

エーリス王オクシュロス配下の戦士

もう一人の著名なピューライクメースは、後にエーリス地方の王となるオクシュロスに仕えた戦士です。彼はアイトーリア地方の出身であり、その戦技の中でも特に石を投げる、すなわち投石の技術に非常に長けていたと伝えられています。

彼の活躍は、オクシュロスがエーリス地方の支配権を巡って争っていた際に顕著となります。オクシュロスは、ヘーラクレイダイ（ヘラクレスの子孫たち）との盟約に基づき、エーリス地方を自らの勢力下に置こうとしましたが、当時のエーリス王ディーオスがこれに抵抗しました。この支配権争いを流血なく解決するため、ディーオス王は両軍からそれぞれ一人の代表者を選出し、その一騎打ちの結果によってエーリスの王位を決定するという提案を行いました。

オクシュロスは、この重大な決定を託す代表者として、自身の部下であり投石の名手であるピューライクメースを選びました。対するディーオス王が代表に選んだのは、弓術を得意とするエーリス軍の戦士、デグメノスでした。両者の間で行われた一騎打ちにおいて、ピューライクメースはその卓越した投石の技術をもってデグメノスを打ち破り、見事に勝利を収めました。このピューライクメースの勝利により、約束通りオクシュロスはエーリス地方の支配権を獲得し、王位に就くことができたのです。彼の戦果は、単なる一戦士の功績に留まらず、エーリス地方の歴史における重要な転換点をもたらしました。

その他のピューライクメース

上記の二名以外にも、ギリシア神話や地理誌において、同名の人物が登場する場合があります。例えば、エウボイア島の王としてピューライクメースという名が伝えられている例も存在しますが、その詳しい物語や系譜については、上記の二名ほど広く知られてはいません。

このように、「ピューライクメース」という名前は、異なる時代や地域で複数の人物に与えられ、それぞれが独自の物語の中で役割を果たしています。

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