ディーオス

古代ギリシアの神話世界には、「ディーオス」（古希: Δῖος、長母音を省略してディオスとも）という名を持つ人物が複数登場します。これらの人物はそれぞれ異なる系譜や伝承を持ち、混同されることもありますが、主に三人の人物が比較的詳しく知られています。以下にその詳細を述べます。

メラニッペーの夫としてのディーオス

南イタリアに位置するメタポンティオンという都市の王として語られるディーオスがいます。彼は、海の神ポセイドーンとの間に英雄ボイオートスとアイオロスという子をもうけた女性、メラニッペーの配偶者とされています。一般的には、メラニッペーはメタポントスという人物と結婚したという伝承が広く知られていますが、古代の地理学者ストラボンは、サモス島出身の詩人アシオスの作品や、メタポンティオンの英雄廟に残された碑文においては、メラニッペーの夫がディーオスであると記されていることを報告しています。この記述は、神話伝承にはしばしば異なるバージョンが存在することを示す一例と言えます。

トロイアのプリアモス王の子としてのディーオス

もう一人のディーオスは、トロイアの偉大な王プリアモスの子の一人として挙げられます。しかし、多くのプリアモスの子供たちが名を連ねる神話学者アポロドーロスのリストには、彼の名前は含まれていません。叙事詩『イリアス』で知られるトロイア戦争において、ヘクトール、トローイロスといった兄たちが次々と戦死した後、まだ生き残っていた他の八人の兄弟たち（ヘレノス、パリス、アガトーン、パムモーン、アンティポノス、ポリーテース、デーイポボス、ヒッポトオス）と共に、父プリアモスから、国難に対する彼らの無力さや怠慢を厳しく叱責される場面で言及されることがあります。これは、滅亡に瀕したトロイア王家の悲劇的な状況を物語るエピソードの一部です。

エーリス地方の王アムピマコスの子としてのディーオス

ペロポネソス半島の西部、エーリス地方を統治した王にもディーオスという名が見られます。彼はアムピマコスの子とされており、その父アムピマコスは、トロイア戦争にエーリス軍を率いて参戦した四人の将軍の一人、ポリュクセノスの息子です。さらに系譜を遡ると、このディーオスは太陽神ヘーリオスの子ともされる伝説的なエーリス王アウゲイアースの子孫にあたると伝えられています。エーリス王ディーオスの治世は、古代ギリシア史において極めて重要な出来事、すなわちヘーラクレースの子孫たち（ヘーラクレイダイ）がペロポネソス半島へと帰還し、各地に定着した時代と重なります。パウサニアースの歴史地理書によると、ヘーラクレイダイの一派を率いるオクシュロスが、強力な武力を背景にディーオス王に対し、一切の戦闘なしに王権を譲渡するよう要求しました。ディーオスはこの要求にすぐには応じず反発しましたが、無用な流血の事態を避けるため、王国の命運を賭けて双方の代表者による一騎討ちで決着をつけることを提案しました。この決闘のために、ディーオス王はエーリス人の中から弓術に長けた戦士デグメノスを選出しました。対するオクシュロスは、投石術を得意とするアイトーリア人の戦士ピューライクメースを代表と立てました。激闘の末、ピューライクメースが勝利を収め、これによってエーリス地方の支配権はオクシュロスへと移りました。しかし、パウサニアースは、この王権交代の後も、ディーオス自身はエーリス地方において特定の特権を保持することを許されたと記しています。

その他のディーオス

上記の三名の他に、神話伝承には同名の人物がいくつか見られます。例えば、神アポローンの息子で、ニュムペーであるメンテーの父とされる人物や、アンタースの子で、テッサリア地方の都市アンテドーンの創建者アンテドーンの父とされる人物、あるいはパンドーロスの子として言及される人物などがいます。これらの人物に関する伝承は比較的少なく、上記の三人のディーオスほどは詳しく知られていません。

このように、「ディーオス」という名は、古代ギリシア神話の中で異なる背景を持つ複数の人物に用いられており、それぞれが独自の物語の一部を担っています。

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