ピョウタンの滝

ピョウタンの滝：発電ダムから生まれた観光名所

北海道十勝地方の中札内村を流れる札内川上流に位置するピョウタンの滝は、一見すると自然の滝のように見えますが、その実態は、昭和29年（1954年）に完成した小水力発電用のダムが、翌年発生した大洪水によって土砂に埋もれてしまった名残です。

発電ダム建設の背景

北海道における電気事業は明治時代後期に始まり、都市部を中心に発展を遂げました。しかし、広大な北海道では、農村部への電力供給が課題となっていました。太平洋戦争後、政府は自家用小水力発電を積極的に支援する政策を打ち出し、北海道も補助金制度を導入しました。この政策を受けて、各地で小水力発電所が建設されました。

中札内村でも、村の電化を進めるため、昭和26年（1951年）に村の農業協同組合が札内川に自家用小水力発電所の建設を決定。国と道からの補助金に加え、村民からの多額の資金を投入する一大事業となりました。

農協ダムの建設と水害

建設工事は難航しました。冬の渇水期に川を堰き止めてダムを建設する計画でしたが、予想外の増水で最初の年は失敗。地質調査の結果、当初計画よりも深い岩盤であることが判明し、設計変更を余儀なくされました。堤高は当初の12メートルから18メートルに増し、工事費用は倍増。雪解け水との競争の中、完成に漕ぎ着けました。

完成した農協ダムは、村に電気を供給し、村民に喜びをもたらしました。しかし、その喜びは長くは続きませんでした。昭和30年（1955年）7月、豪雨による大洪水が発生。大量の土砂がダムを埋没させ、発電施設は壊滅的な被害を受けました。再建は断念され、北海道電力からの買電に切り替えられました。

ピョウタンの滝の誕生と観光地の整備

埋没したダムは、水利権保持のため残されました。いつからか、このダム跡は「ピョウタンの滝」と呼ばれるようになりました。「ピョウタン」の語源は諸説ありますが、アイヌ語に由来するという説もあります。

昭和40年代後半からは、日高横断道路建設の機運の高まりや、周辺の林道整備を背景に、滝周辺の景観を生かした地域開発が進められました。北海道がダムを買い上げ、改修工事が行われ、越流時の水量に対応するため、左岸側が拡幅されました。

昭和40年代後半から、周辺は「南札内渓谷札内川園地」として整備され、トイレ、駐車場、キャンプ場などの施設が整い、人気の観光スポットとなりました。毎年7月には「やまべ放流祭」が開催されるなど、地域活性化にも貢献しています。しかし、近年は集客数の減少に悩まされています。

ピョウタンの滝の地理と観光

ピョウタンの滝は、札内川上流に位置し、上流には札内川ダムがあります。堰堤の全高は18メートル、長さは84.5メートル。コンクリート製の堤体が自然の岩を組み込んでおり、自然の滝のような景観を呈しています。

札内川園地内には、遊歩道、運動施設、レストラン、日高山脈山岳センターなどがあり、春から秋にかけて多くの観光客が訪れます。渓流釣りやラフティングなどのアクティビティも楽しめます。

ピョウタンの滝は、人々の努力と自然の力によって生み出された、独特の観光名所です。かつて発電用ダムとして機能していた施設が、現在は人々を魅了する景勝地として、その歴史を語り継いでいます。その歴史と自然の織りなす美しい景観は、今後も多くの観光客を惹きつけ続けるでしょう。

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