ピンカス・ズーカーマン

ピンカス・ズーカーマン（1948年 7月16日生まれ）は、イスラエルのテル・アヴィヴ出身の著名な音楽家です。ヴァイオリン、ヴィオラ奏者として世界的な名声を確立しているほか、指揮者としても活動しています。現在はカナダを主な拠点とし、1998年4月からはオタワ国立芸術センター管弦楽団（NACO）の音楽監督を務めています。

人物と経歴

ポーランド系ユダヤ人の両親のもとテル・アヴィヴに生まれ、ヴァイオリニストであった父親から最初の音楽の手ほどきを受けました。8歳でテル・アヴィヴ音楽院に入学。12歳の時、イスラエル音楽祭での演奏がアイザック・スターンとパブロ・カザルスの目に留まり、スターンの後援のもとニューヨークのジュリアード音楽院へ留学する機会を得ました。ジュリアードでは、名教育者として知られるイワン・ガラミアンに師事し、その指導のもとで才能を磨きました。

1967年、レーヴェントリット国際コンクールにおいて、同じガラミアン門下のチョン・キョンファと共に第1位を獲得し、これを機に欧米各地でソロ活動を開始。ガラミアン門下ならではの美しい音色が高く評価され、アメリカやヨーロッパ、特にイギリスでは大衆的な人気を獲得しました。

指揮活動にも精力的に取り組んでおり、1974年にはニュー・フィルハーモニア管弦楽団を指揮してデビュー。1980年から1987年にかけてはセントポール室内管弦楽団の音楽監督を務めました。また、ダラス交響楽団やイギリス室内管弦楽団など、各地のオーケストラに客演しています。ピアニストで指揮者のダニエル・バレンボイムや、同じヴァイオリニストのイツァーク・パールマンとは個人的にも親交が深く、頻繁に共演を行っています。

ヴァイオリンだけでなくヴィオラの演奏家としても名高く、室内楽では東京クヮルテットやパールマンとの共演による録音を残しています。特に、バルトークの協奏曲集では、ヴァイオリン協奏曲第2番とヴィオラ協奏曲の両方を1枚のCDに収めるという珍しい録音も行っています。ヴァイオリンとヴィオラを合わせて100点以上の録音があり、そのうち21点がグラミー賞にノミネートされ、2回受賞しています。

2011年4月には、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故による放射能への懸念から出演を辞退した音楽家の代役として、第16回宮崎国際音楽祭への出演を決定。「日本を元気づけたい」との思いから参加を決めたことは、当時大きな注目を集めました。

2021年の発言を巡る問題

2021年、ジュリアード音楽院主催のオンラインクラスにおいて、混血の日本人姉妹の演奏に対し、人種差別的と受け取られかねない発言をしたとして非難を浴びました。具体的には、姉妹の演奏について「もっとフレーズを考えるべき。少しビネガーを足して…いや醤油か！」と発言したり、演奏表現に関して「韓国では歌を歌わない」と述べ、姉妹の一人が韓国人ではないと伝えると「日本でも歌は歌わない」と続けました。さらに、アジア人の訛りを真似ながら、韓国人が歌を歌えないのは「彼らの遺伝子に備わっていないから」と説明するような発言もしました。また、別の場で「中国人は決してメトロノームを使わない。ただ速くうるさくするだけ」といった趣旨の発言をしたことも明らかになりました。

これらの発言は『ニューヨーク・タイムズ』を含む主要メディアや音楽専門メディアで批判的に報じられ、ジュリアード音楽院は問題となった発言部分を動画から削除しました。ズーカーマン氏は、「私が使った言葉は文化的に鈍感なものだった」と認め、「学生たちに個人的に謝罪の手紙を書き、不快な思いをさせた人々には遺憾に思う」とのコメントを発表しました。

家族

1985年に女優のチューズデイ・ウェルドと結婚しましたが、1998年に離婚。同年から関係を続けていたチェリストのアマンダ・フォーサイスと再婚しています。NACOへの移籍はアマンダとの関係が影響したとも言われています。最初の結婚（相手はフルート奏者で作家のユージニア・ズーカーマン）との間には2人の娘がおり、アリアナはオペラ歌手（ソプラノ・リリコ）として、ナターリアはロック歌手としてそれぞれ音楽の道に進んでいます。

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