ピンナップス

ピンナップス（Pin Ups）

イギリスが誇る孤高のアーティスト、デヴィッド・ボウイによって制作されたアルバム『ピンナップス』は、彼のディスコグラフィーの中でもユニークな位置を占める作品です。1973年10月19日、RCAレコードより発表された本作は、ボウイにとって全曲が他アーティストの楽曲で構成された、キャリア唯一のカバー・アルバムとして知られています。

このアルバムが生まれた背景には、それまでボウイを象徴するペルソナであった「ジギー・スターダスト」というキャラクターが肥大化し、もはや自身のアーティスト像をも凌駕しつつあった状況からの脱却を図り、自身の音楽的な原点、つまりインスピレーションの源泉へと回帰したいという彼の明確な意図がありました。

収録されたのは、全てが1960年代に発表された楽曲です。これはボウイ自身が青年期に影響を受け、英国ロックシーンを形作った時代の音楽への深いリスペクトを示しています。選曲は、主にイギリスのバンドの作品が中心となっていますが、唯一、B面1曲目のオリジナル・バージョンはオーストラリアのバンド、イージービーツによるものです。

具体的には、プリティ・シングス（2曲）、ゼム（1曲）、ヤードバーズ（2曲）、ピンク・フロイド（1曲）、モージョズ（1曲）、ザ・フー（2曲）、イージービーツ（1曲）、マージーズ（1曲）、キンクス（1曲）といった、当時のブリティッシュ・インヴェイジョンを代表するバンドから、サイケデリック、ガレージロックまで、多岐にわたるアーティストの楽曲が大胆にカバーされています。ボウイ独自の解釈とアレンジにより、原曲とは異なる魅力を引き出している点も、このアルバムの大きな特徴と言えるでしょう。

本作のレコーディングには、彼のバックを務めていたバンド「スパイダース・フロム・マース」が参加していますが、メンバーには一部変更がありました。特にドラマーは、ウッディー・ウッドマンジーに代わり、エインズレー・ダンバーが起用されています。ダンバーはその後、ジャーニーやホワイトスネークといった名だたるバンドで活躍することになる実力派ドラマーです。また、ギタリストとしてボウイサウンドの要を担っていたミック・ロンソンは、この作品を最後にボウイのプロジェクトを一時離脱します。二人が再びスタジオで音を共にするのは、1990年代に入ってからのこととなります。

アルバムのジャケット写真も非常に印象的です。当時、世界的に著名なファッションモデルであったツイッギーが、ボウイと並んで写る写真は、時代を象徴するビジュアルとして今も語り継がれています。

商業的にも成功を収め、母国イギリスではチャートで堂々の1位を獲得。アメリカでもビルボードチャートで23位を記録し、その人気の高さを証明しました。

このアルバムには、デヴィッド・ボウイ自身がボーカルに加え、ギターとサクソフォーンを担当しています。ミック・ロンソンはギター、ピアノ、ヴォーカルで参加。リズム隊は、トレバー・ボルダーがベースを、エインズレー・ダンバーがドラムスを担当しました。さらに、マイク・ガースンがピアノ、ケン・フォーダムがサクソフォーン、ジェフ・マコーマックがバッキング・ヴォーカルとして参加し、作品に深みを与えています。

後年、1990年にはEMI（アメリカではRYKO）からCD化され再発売されており、この際には未発表テイクがボーナストラックとして2曲追加され、新たな形でファンに届けられています。『ピンナップス』は、単なるカバー集にとどまらず、ボウイが自身のルーツを振り返り、次の音楽的探求へと向かうための重要な転換点となった作品と言えるでしょう。

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