ピーター・カール・ファベルジェ

ピーター・カール・ファベルジェ：ロシアを代表する宝石商

ピーター・カール・ファベルジェ（1846年5月30日 - 1920年9月24日）は、ロシア帝国時代に活躍した著名な宝石商であり、金細工師です。特に、皇帝のために制作されたイースターエッグは、彼の名を世界に知らしめることとなりました。

生い立ちと修行

ファベルジェは、サンクトペテルブルクで宝石商グスタフ・ファベルジェの息子として生まれました。父方の祖先はフランスのユグノーであり、宗教的な迫害を逃れてロシアに移住しました。ファベルジェは、ドレスデンの工芸学校で学んだ後、ヨーロッパ各地で修行を積みました。ドイツ、フランス、イギリスで金細工の技術を学び、パリでは商業カレッジにも通いました。この経験を通して、彼は芸術性と技術を融合させる独自のスタイルを確立しました。

1872年にサンクトペテルブルクに戻ったファベルジェは、アウグスタ・ユリア・ヤーコプスと結婚しました。その後10年間は、父の代からの職人頭ヒスキアス・ペンディンの指導を受けました。1882年にペンディンが亡くなると、ファベルジェは工房の運営を全面的に引き継ぎました。

皇帝御用達の宝石商へ

ファベルジェは、マスター・ゴールドスミスの称号を得て、自身のホールマークを使用できるようになりました。彼の卓越した技術は高く評価され、通常3日間の試験が免除されるほどでした。また、弟のアガトンも工房に加わり、創造的なデザインで貢献しました。

1882年のモスクワで開催された全ロシア博覧会で、ファベルジェの作品は大評判を呼びました。彼は金賞と聖スタニスラス賞を受賞し、その名声を確固たるものにしました。特に、エルミタージュ美術館所蔵のスキタイの金の腕輪のレプリカは、皇帝アレクサンドル3世を驚かせ、ファベルジェの工房の作品をエルミタージュに展示するよう命じました。

ファベルジェの工房は、18世紀フランスのスタイルを踏襲しつつ、エナメル細工や宝石のセッティング技術を復活させました。アガトンは、一つの作品を完成させるために10個以上のワックスモデルを作成するなど、徹底的に細部にこだわりました。

インペリアル・イースターエッグ

1885年、ファベルジェ工房はロシア皇室御用達に指名され、皇帝アレクサンドル3世からイースターエッグの制作を依頼されました。翌年以降も制作を依頼され、1887年からは、より精巧なイースターエッグが作られるようになりました。これらのイースターエッグは、それぞれにサプライズが組み込まれており、そのデザインは皇帝でさえ知らされませんでした。次の皇帝ニコライ2世も、毎年2つの卵を注文し、この習慣は十月革命まで続きました。

ファベルジェ工房の終焉

ファベルジェ工房は、イースターエッグだけでなく、銀食器やジュエリーなど、多岐にわたる作品を制作しました。最盛期には、従業員500人を抱えるロシア最大の宝石商となり、サンクトペテルブルクの他、モスクワ、オデッサ、キエフ、ロンドンにも支店を構えました。1882年から1917年の間に、15万から20万もの作品が制作されました。

1900年には、パリ万国博覧会にも作品が出品され、グランプリを受賞しました。ファベルジェは、フランスで最も名誉あるレジオンドヌール勲章のシュバリエを授与されました。しかし、1917年の十月革命により、ファベルジェのビジネスは終焉を迎えます。1918年、工房はボリシェヴィキによって国有化され、ファベルジェは国外に亡命しました。

晩年と死

ファベルジェは、革命の混乱の中、家族とともに亡命生活を送りました。彼は、愛した国で起こった悲劇のショックから立ち直ることができず、「生きていても仕方ない」と漏らすこともあったといいます。1920年9月24日、スイスで亡くなりました。彼の死は、失意によるものだと家族は考えています。

ファベルジェの遺産

ファベルジェの商標は、紆余曲折を経て現在はイギリスのジェムフィールズの一部門となり、宝飾品及び腕時計を販売しています。ピーター・カールの曾孫であるタチアナ・ファベルジェとサラ・ファベルジェは、ファベルジェブランドの復興に尽力しました。

人物像

ファベルジェは、集中力があり、無駄な行動やおしゃべりを嫌う人物だったとされています。彼は、顧客からの注文をすぐに忘れてしまうことがありましたが、ウィットに富み、嫌いなタイプには容赦がありませんでした。また、旅行の際には手ぶらで出かけ、目的地で必需品を買い揃える習慣がありました。彼の寛容な性格が、成功の基盤であったとされています。

ファベルジェの作品は、現在でも世界中のコレクターに愛されており、その美しさと精巧さは、時代を超えて人々を魅了し続けています。

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