ピーター・ガブリエル (アルバム)

Peter Gabriel (1977)

『ピーター・ガブリエル』は、1977年にリリースされた、イングランド出身のミュージシャン、ピーター・ガブリエルのキャリアにおける最初のソロアルバムです。彼はそれまで、プログレッシブ・ロックの代表的なバンド、ジェネシスのフロントマンとして活躍していましたが、1975年にバンドを離れ、本作で新たな音楽的探求を開始しました。

このアルバムの制作は、1976年7月に始まりました。プロデューサーには、アリス・クーパーの一連の作品や、ルー・リードのコンセプトアルバム『ベルリン』（1973年）などを手掛けたことで知られるカナダ人のボブ・エズリンが起用されました。エズリンのプロデュースワークは、ガブリエルがバンド時代の枠にとらわれず、より実験的かつ多様なサウンドを追求する上で大きな影響を与えたと言われています。アルバムの視覚的な要素も重要視されており、ジャケットデザインは、ピンク・フロイドなどの仕事で著名なイギリスのデザインチーム、ヒプノシスが担当しました。

本作のタイトルは、ガブリエルの名前を冠した単純な『Peter Gabriel』ですが、彼のソロキャリアでは、これに続いて内容の異なるアルバムがさらに3作、すべて同じタイトルで発表されています。この異例のタイトル付けのため、後続の同名アルバムと区別するために、本作は便宜的にリリース順を示す『Peter Gabriel 1』や、その印象的なジャケット写真から『Car』という愛称で呼ばれるようになりました。

レコーディングには、ガブリエル（ボーカル、キーボード、フルート、リコーダー）自身に加え、多くの優れたミュージシャンが集結しました。中でも特筆すべきは、1974年に活動を休止していたキング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップの参加です。彼はキング・クリムゾン解散後、一時的に音楽活動から距離を置いていましたが、本作への参加を機に再び積極的に音楽シーンに関わるようになりました。フリップはギターとして参加し、その革新的なプレイでアルバムサウンドに深みを与えています。彼はさらに、次作『ピーター・ガブリエル II』ではプロデューサーとしてガブリエルとタッグを組むことになります。

他にも、ベースやチューバ、そしてバーバーショップ・カルテットのリーダーとしてもクレジットされているトニー・レヴィン、キーボードのジョゼフ・チロフスキー、シンセサイザーやプログラミング担当のラリー・ファスト、ドラムのアラン・シュワルツバーグなど、そうそうたる顔ぶれが参加しています。ギターにはスティーヴ・ハンターやディック・ワグナー、パーカッションにはジミー・マーレンが名を連ねています。また、特定の楽曲（「ダウン・ザ・ドルチェ・ヴィータ」と「ヒア・カムズ・ザ・フラッド」）ではロンドン交響楽団によるオーケストレーションがフィーチャーされており、マイケル・ギブスがそのアレンジを手掛けました。これにより、アルバムはロックサウンドだけでなく、より壮大でシネマティックな響きも獲得しています。

収録曲は全9曲で、ガブリエル自身が多くの楽曲の作詞・作曲を手掛けていますが、「エクスキューズ・ミー」はマーティン・ホールとの共作です。特にオープニングを飾る「モリバンド・ザ・バーガーマイスター」から始まり、ソロキャリアを代表する楽曲の一つとなった「ソルスベリー・ヒル」、叙情的な「ヒア・カムズ・ザ・フラッド」など、バラエティに富んだ楽曲が収録されています。本作は、ガブリエルがジェネシスという大きなフレームから飛び出し、一人のアーティストとして独自の音楽世界を構築し始めた記念碑的作品であり、その後の革新的な活動の基礎となりました。

収録曲

特記なき楽曲の作詞・作曲はピーター・ガブリエル

1. 「モリバンド・ザ・バーガーマイスター」 - "Moribund the Burgermeister"
2. 「ソルスベリー・ヒル」 - "Solsbury Hill"
3. 「モダン・ラヴ」 - "Modern Love"
4. 「エクスキューズ・ミー」 - "Excuse Me" (ガブリエル、マーティン・ホール)
5. 「ハムドラム」（旧邦題「うつろな日々」） - "Humdrum"
6. 「スローバーン」 - "Slowburn"
7. 「ウェイティング・フォー・ザ・ビッグ・ワン」 - "Waiting for the Big One"
8. 「ダウン・ザ・ドルチェ・ヴィータ」 - "Down the Dolce Vita"
9. 「ヒア・カムズ・ザ・フラッド」（旧邦題「洪水」） - "Here Comes the Flood"

パーソネル

ピーター・ガブリエル - ボーカル、キーボード、フルート、リコーダー
ロバート・フリップ - エレクトリックギター、クラシックギター、バンジョー
トニー・レヴィン - ベース、チューバ、バーバーショップ・カルテットのリーダー
ジョゼフ・チロフスキー - キーボード
ラリー・ファスト - シンセサイザー、プログラミング
アラン・シュワルツバーグ - ドラム
スティーヴ・ハンター - アコースティックギター、リード・ギター、エレクトリックギター、リズム・ギター、ペダル・スティール
ディック・ワグナー - バック・ボーカル、ギター
ジミー・マーレン - パーカッション、シンシバム、ボーンズ
ロンドン交響楽団 - オーケストレーション
* マイケル・ギブス - オーケストラ・アレンジ

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