ピーター・ガブリエル IV

『ピーター・ガブリエル IV』は、英国出身の革新的なミュージシャン、ピーター・ガブリエルが1982年に発表したソロ通算4作目のアルバムです。この作品は、しばしば『Security』の別名でも知られており、また、彼のソロキャリアにおいて自身の名をタイトルに冠したアルバムとしては最後にリリースされた作品となりました。

制作背景とコンセプト

前作『ピーター・ガブリエル III』の制作を終えた後、ガブリエルは自身の音楽的な探求について興味深い洞察を語っています。彼は特に、パーカッションとエレクトロニクスのみを基盤とする音楽分野への強い関心を表明し、これを「プリミティブ（原始的）エレクトロニクス・ミュージック」と称しました。そして、この方向性が1980年代における自身の主要な音楽的アプローチとなるだろうと示唆していました。

このような思考は、非ヨーロッパ圏の民族音楽や、タムラ（モータウン）のような古い時代のソウルミュージックから受けた影響と結びついています。彼は作曲プロセスにおいて、まず40〜50ものリズムパターンを用意し、そこから徐々に絞り込んで最終的な楽曲へと仕上げていくという、独特かつ、本人も「とても無駄なプロセス」と認識する手法を取り入れていました。しかし、彼はそれが自身の望むやり方であると語っています。

サウンドメイキングとデジタル技術

本作のサウンドの核を成すのは、当時の最先端デジタル技術の導入です。ガブリエルは、フェアライトCMIやリン・ドラムマシンといったデジタル・プログラミング機材を積極的に使用し、ベーシック・トラックを構築しました。特にフェアライトCMIについては、ライブパフォーマンスでも容易に再現できるサウンドを追求し、独自のサウンドライブラリを創造しようと試みたことが明かされています。

このデジタル基盤の上に、彼の長年のツアーを支えてきた信頼できるミュージシャンたちの演奏が重ねられています。彼らは、ギタリストのデヴィッド・ローズ、ベーシスト（およびチャップマン・スティック奏者）のトニー・レヴィン、ドラマーのジェリー・マロッタ、シンセサイザー奏者のラリー・ファスト、ギタリストのジョン・エリスといった面々です。

ゲスト参加とWOMAD

本作には特筆すべきゲスト参加があり、サウンドに多様性を加えています。ピーター・ガブリエルの隣人でもあったヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターのフロントマン、ピーター・ハミルがコーラスで参加し、楽曲に深みを与えています。また、収録曲「ザ・リズム・オブ・ザ・ヒート」には、エコーメ・ダンス・カンパニーによるガーナ式のパワフルなドラムサウンドが取り入れられており、彼が追求する非欧米的なリズムへの傾倒が明確に表れています。

アルバム発表の直前、1982年7月には、ピーター・ガブリエルが発案者の一人として深く関わった国際的な民族音楽・ダンスの祭典「ウォーマッド（WOMAD）」が開催されました。彼はブリストルのオーディオ・マガジン『ザ・レコーダー』のスタッフでもあったトーマス・ブルーマンと共に、この祭典の実現に尽力しました。かつてガブリエルは『ザ・レコーダー』誌に自身のライブテイクを提供しており、こうした活動は本作で追求されたワールドミュージック的な要素への関心と密接に結びついています。

収録曲とパーソネル

アルバムには以下の8曲が収録されており、全曲ともピーター・ガブリエル自身が作詞・作曲を手掛けています。「ショック・ザ・モンキー」はシングルカットされ、広く知られることとなりました。

サイド1

「ザ・リズム・オブ・ザ・ヒート」 - "The Rhythm of the Heat" 5:15
「サン・ジャシント」 - "San Jacinto" 6:21
「アイ・ハヴ・ザ・タッチ」 - "I Have the Touch" 4:30
「ザ・ファミリー・アンド・ザ・フィッシング・ネット」 - "The Family and the Fishing Net" 7:08

サイド2

「ショック・ザ・モンキー」 - "Shock the Monkey" 5:28
「レイ・ユア・ハンズ・オン・ミー」 - "Lay Your Hands on Me" 6:03
「ウォールフラワー」 - "Wallflower" 6:30
「キス・オブ・ライフ」 - "Kiss of Life" 4:17

主なパーソネル

ピーター・ガブリエル – ボーカル、プログラミング、シンセサイザー、ピアノなど
トニー・レヴィン – ベース、チャップマン・スティック
デヴィッド・ローズ – ギター
ジェリー・マロッタ – ドラム、パーカッション
ラリー・ファスト – シンセサイザー、エレクトロニック・パーカッション
ジョン・エリス – バック・ボーカル、ギター
ロベルト・ラネリ – サクソフォーン
モーリス・パート – ティンバルス、パーカッション
ステファン・ペイン – プログラミング
デヴィッド・ロード – シンセサイザー、ピアノ
ピーター・ハミル – バック・ボーカル
ジル・ガブリエル – バック・ボーカル
* エコム・ダンス・カンパニー – ガーナイアン・ドラム (「ザ・リズム・オブ・ザ・ヒート」)

『ピーター・ガブリエル IV』は、当時の最新技術と民族音楽的なリズム、そして彼独自のメロディセンスが融合した、野心的かつ革新的な作品として高く評価されています。このアルバムで確立されたサウンドアプローチは、その後のピーター・ガブリエルの音楽キャリアにおいて重要な基盤となり、彼の代表作の一つとして位置づけられています。

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