フェアライトCMI

フェアライトCMI (Fairlight CMI)

フェアライトCMIは、1979年にオーストラリアのフェアライト社によって発表され、1980年に市場に登場した電子楽器です。CMIとは「Computer Musical Instrument」の略であり、その名の通り、音楽制作のためにデジタル技術を駆使した機器です。このシンセサイザーは、当時の音楽制作シーンに革命をもたらし、さまざまな音楽家やプロデューサーに愛用されてきました。

時代背景

1980年代初頭、音楽製作においてデジタル技術の導入が急速に進み、フェアライトCMIやニューイングランドデジタル社のシンクラヴィアがその先駆けとなりました。これらは、個々の機材をデジタル化したものに留まらず、音楽制作のワークフローを全て一台で完結するためのシステムとして開発されました。エンターテインメント業界からの注目を集め、主に一流のアーティストや制作会社によって利用されることが多く、1980年代の音楽制作において不可欠な存在となりました。しかし1990年代に入ると、アナログ機材への回帰やコストパフォーマンスの良いデジタル機器の普及が進み、徐々に使用頻度が減少していきました。

歴史

フェアライトCMIは、大学生であったキム・ライリーとピーター・ヴォーゲルによって発明されました。基本システムはOS-9を使用し、モトローラ6800および6809のCPUを搭載。また、この機器はサンプラー、倍音加算方式シンセサイザー、簡易シーケンサー機能を兼ね備えており、特に波形をCRT画面上で直接書き込むことができるユニークな機能がありました。これにより、DTM（デジタル音楽制作）の基盤を築くこととなり、今日の音楽制作ツールにも影響を与えています。

サンプル性能については、シリーズIにおいて8ビットの分解能と最大30.2kHzのサンプリング周波数を誇ります。これにより、当時の音としては高品質ではなかったものの、アート・オブ・ノイズなどのアーティストによって独自の音が生み出されていました。特に「オーケストラル・ヒット」と称されるサウンドセットは、多くの楽曲に取り入れられ、後のシンセサイザーでも類似の波形が用いられるなど、音楽制作において広く受け入れられました。

1985年に発売されたシリーズIIIでは、サンプリング性能が16ビット、サンプリング周波数もCD品質の44.1kHzに向上しました。当初の価格はおよそ1200万円と高額でしたが、多くのプロ音楽家がこの機材を手に入れ、フェアライト社はオーストラリア政府の支援のもとで急成長を遂げました。しかし、次第に高機能のMIDIシーケンサーやデジタルオーディオワークステーションが台頭することで、フェアライトCMIの需要は減少していきました。

日本への導入

フェアライトCMIは日本にも導入されており、最初に購入したのはTPOというバンドのリーダー安西史孝によるもので、1983年にはデビューアルバム『TPO1』をリリースしました。1982年からは松下電器貿易が輸入を開始し、ナニワ楽器が販売を担当しました。その後も多くの著名なアーティストに使用され、80年代から90年代初頭にかけて音楽制作の現場で不可欠なツールとなりました。

当時の使用例には、坂本龍一のアルバム『音楽図鑑』や久石譲の映画音楽が含まれており、フェアライトCMIは特にその時代の音楽において重要な役割を果たしました。これらのアーティストは、音楽制作においてこの画期的な機器を積極的に利用しましたが、次第にAKAI製のサンプラーや、よりコストパフォーマンスの良い機器への移行が見られました。

現代のフェアライトCMI

2011年には、ヴォーゲルが「Fairlight CMI-30A 30th Anniversary Edition」を発表しました。オリジナルとは異なるWindows PCベースでありながら、当時のサウンドを忠実に再現できる機能を搭載しています。また、iPhone/iPad向けのアプリ版「Peter Vogel CMI」もリリースされており、デジタル時代における新たなユーザー体験を提供しています。

フェアライトCMIは、技術の進化と共に変化してきましたが、その音楽制作への影響は確かに今も続いています。

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