ピート・ファンデカンプ

ピート・ファンデカンプ（Piet van de Kamp, 1901年12月26日 - 1995年5月18日）は、アメリカ合衆国の著名な天文学者であり、特に恒星の視差と固有運動の研究でその名を知られています。彼はアメリカではピーター・ファンデカンプ（Peter van de Kamp）として広く認識されています。

ファンデカンプは、天文学の中でもアストロメトリという精密な位置測定の分野で世界的な権威でした。彼の研究は、星の位置を正確に測定し、その動きを詳細に分析することに焦点を当てていました。特に、太陽系に比較的近い恒星であるバーナード星の観測に長年取り組み、その詳細なデータは、後の惑星探査の議論に大きな影響を与えました。

1960年代、ファンデカンプはバーナード星の固有運動に小さな揺らぎを発見しました。この観測結果から、彼はバーナード星の周りに惑星、あるいは惑星のような天体が存在すると主張しました。当初は木星程度の質量を持つ惑星が一つ存在すると考えましたが、後の観測により、惑星が二つ存在するという仮説を立てました。この説は、当時としては画期的なもので、太陽系外惑星の存在を強く示唆するものでした。しかし、1970年代に入ると、アレゲニー天文台や南フロリダ大学の研究者たちが、ファンデカンプの観測結果は観測機器の誤差によるものであり、惑星の存在を示すものではないと否定しました。この結論は、ファンデカンプの長年の研究を覆すものでしたが、天文学の進歩において、観測機器の精度とデータの解釈が非常に重要であることを示す教訓となりました。

ファンデカンプの生涯は、天文学の研究に捧げられました。オランダのカンペンで生まれ、1922年にユトレヒト大学を卒業後、アメリカに渡り天文学の研究を続けました。彼はマコーミック天文台やリック天文台で学び、1925年にカリフォルニア大学から博士号を取得しました。その後、バージニア大学附置のマコーミック天文台に戻り、恒星の固有運動の観測に没頭しました。1937年から1972年まで、スワースモア大学で天文学の教授を務め、同大学のスプロール天文台の台長として、後進の育成にも力を注ぎました。アストロメトリの研究を通じて、数多くの小天体を発見するなど、天文学の発展に大きく貢献しました。

ファンデカンプの業績は、1982年のジュール・ジャンサン賞の受賞によって称えられました。彼は1995年5月18日に93歳で亡くなりましたが、そのわずか5ヶ月後にミシェル・マイヨールらによって最初の太陽系外惑星が発見されたことは、彼の研究が後の惑星探査に繋がる重要な一歩であったことを示唆しています。彼の研究は、結果として誤りであったとしても、他の天文学者たちが系外惑星を探査する上で、その方向性を示す役割を果たしました。

ファンデカンプの研究は、系外惑星研究の初期段階において、観測データと解釈の重要性を明確に示しました。彼の情熱と努力は、今日の系外惑星研究の基礎を築いたと言えるでしょう。彼の研究に対する姿勢は、天文学者が常に謙虚であり、観測結果を批判的に評価する必要があることを教えてくれます。

参考文献
* 井田茂、『異形の惑星-系外惑星形成理論から-』、NHKBOOKS、2003年。ISBN 4-14-001966-2

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