ファイアスターター (小説)

ファイアスターター

スティーブン・キングによって1980年9月に世に送り出されたSF小説。強力な超能力を持つ少女と、彼女を守ろうとする父親の逃亡と闘いを描いた物語であり、後には『炎の少女チャーリー』のタイトルで複数回映画化もされています。

日本語版は、深町眞理子の手による翻訳が新潮文庫から1982年9月に上下巻で刊行されました。

あらすじ

物語の発端は、アンディとヴィッキーという二人の若者が、大学時代に人体実験を兼ねた実験的な新薬「ロト・シックス」の治験に参加したことにあります。この薬剤の影響で、彼らは特殊な能力を得ることになります。アンディは他者の精神に干渉し、自分の考えを相手に信じ込ませるという催眠術のような能力、彼が「押す」（the push）と呼ぶ力を手に入れました。一方、ヴィッキーはごく微弱な念動力（サイコキネシス）を発現させました。これらの能力は完全ではなく、アンディは使いすぎると激しい頭痛に襲われ、ヴィッキーの念動力は隣室のテレビを消す程度の力でさえ成功したり失敗したりする不安定なものでした。

その後、アンディとヴィッキーは結ばれ、娘のチャーリーが誕生します。しかし、チャーリーは両親とは比較にならない、桁外れに強力なパイロキネシス（発火能力）を持って生まれてきました。その能力は非常に危険なため、両親は彼女に、まるでトイレットトレーニングのように、能力を人前で安易に発揮しないよう慎重に制御することを教え込みました。

一家は、表向きは平和な日常を送っていましたが、実際には政府の秘密組織「店」（ザ・ショップ）の下部組織によって密かに監視されていました。ある日、監視員の誤解から、アンディとチャーリーが組織から逃亡しようとしていると判断されてしまいます。この誤った判断が悲劇を招き、ヴィッキーは組織による苛烈な尋問の末に命を落とします。これにより、アンディとチャーリーは文字通り、組織からの逃亡を余儀なくされます。

逃亡の途中、二人はアーヴ・マンダーズという心優しい農夫とその妻ノーマに出会います。彼らにかくまわれ、温かい援助を受ける中で、アンディはマンダーズ夫妻に自らの置かれた状況を打ち明けます。しかし、安息の時も束の間、「店」の追跡の手がマンダーズ農場に及びます。アーヴは「店」に抵抗を試みますが、組織が強硬手段に出ようとしたその瞬間、チャーリーのパイロキネシス能力が制御不能なまでに暴走し、マンダーズ邸は炎上します。「店」の隊員が退却する中、チャーリーは自らの力の恐ろしさに打ちひしがれ、二度と能力を使わないと誓いますが、アーヴは彼女の決意を否定し、「『ぜったいできない』と言う人間に、やるべき義務を負わせることが神様は何よりも好きだから、精一杯、力を尽くすのだ」と諭し、能力と向き合うよう促します。

マンダーズ農場での事件は、「店」にチャーリーの持つ絶大な能力を改めて強く認識させました。「店」の幹部であるジェームス・ホリスター、通称“キャップ”は、有能かつ冷酷なエージェント、ジョン・レインバードを招集し、親子の捕獲を指示します。潜伏先の別荘を急襲された親子は捕えられてしまい、「店」の本部に監禁されることになります。そこでアンディは、薬物投与によって精神を弱体化させられ、気力を失った無為な状態に陥ります。一方、チャーリーは組織による様々な実験や尋問に晒され、精神的に深く傷つき、心を閉ざしてしまうのでした。絶望的な状況の中、チャーリーは生き残るため、そして組織に抗うために、自らの内に秘めた炎の力を再び解き放つことを迫られます。

主な登場人物

アンドルー・マッギー（アンディ）: 主人公。実験で他者の精神に干渉する「押す」能力を得た。娘チャーリーを守るために奔走する。
ヴィクトリア・トムリンソン（ヴィッキー）: アンディの妻。実験で弱い念動力を持つが、組織の追跡の過程で命を落とす。
シャーリーン・ロバータ・マッギー（チャーリー）: 愛称はチャーリー。アンディとヴィッキーの娘で、並外れて強力なパイロキネシス能力を持つ。
キャプテン・ジェームス・ホリスター（キャップ）: 政府の秘密組織「店」の幹部。親子の捕獲を指揮する。
ジョン・レインバード: 「店」のエージェント。チェロキー族の血を引く巨漢でベトナム帰還兵。醜悪な容貌だが物静かな性格の冷徹な追跡者。
ジョーゼフ・ウォンレス: 「店」の科学者で、新薬「ロト・シックス」開発・実験の責任者。
ハーマン・ピンチョット: 「店」に所属する医師。アンディの能力テストを担当するが、「押す」能力の影響で悲劇的な末路をたどる。
アーヴ・マンダーズ、ノーマ・マンダーズ: 逃亡中のアンディとチャーリーをかくまった心優しい農夫夫妻。

書籍情報

新潮文庫版（訳：深町眞理子、表紙画：味戸ケイコ）
上巻：1982年9月刊行、ISBN 978-4102193013
下巻：1982年9月刊行、ISBN 978-4102193020

映画化作品

『炎の少女チャーリー』（1984年公開、主演：ドリュー・バリモア）
『炎の少女チャーリー』（2022年公開、主演：ザック・エフロン）

関連事項

『華氏451度』: レイ・ブラッドベリの小説。本作の冒頭に引用されている。
* 『バオー来訪者』: 漫画家・荒木飛呂彦の作品。登場人物の設定に一部変更があるものの、本作とのプロットの類似性が指摘されている。

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