ファゴットのためのロマンス

エルガー：ロマンス ニ短調 作品62

エドワード・エルガーが作曲した『ロマンス』ニ短調 作品62は、ファゴットと管弦楽のために書かれた一曲です。作曲者自身の手によるチェロと管弦楽のための編曲版も存在し、これらのバージョンはいずれも1909年から1910年にかけて創作されました。また、独奏楽器をピアノ伴奏で演奏するための楽譜も出版されています。

この作品は、当時のロンドン交響楽団で首席ファゴット奏者を務めていたエドウィン・F・ジェームズに献呈されました。ファゴット版の初演は、1911年2月にヘレフォードで行われ、ジェームズが独奏を担当し、エルガー自身がタクトを執りました。一方、チェロのための編曲版は、長年にわたり演奏機会に恵まれず、世に広く知られるようになったのは1985年以降のことです。

『ロマンス』作品62が書かれたのは、エルガーの創作において、ヴァイオリン協奏曲や交響曲第2番といった規模の大きな傑作群が次々と生み出されていた円熟期に当たります。しかし、演奏時間が5分程度と比較的短い本作は、これらの記念碑的な作品とは対照的に、より内省的で穏やかな性格を持っています。エルガーの音楽に造詣が深い音楽評論家のマイケル・ケネディは、この『ロマンス』におけるファゴットの扱いに注目し、ファゴットが持つユーモラスな面というよりも、その「詩人」あるいは「歌手」としての叙情的な魅力を鮮やかに描き出していると評しています。

楽器編成

本作の楽器編成は以下の通りです。

ファゴット独奏
フルート 2
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2 （第2奏者は任意）
ホルン 3
トロンボーン 3 （任意）
ティンパニ
* 弦五部

楽曲構成

楽曲は、アンダンテ、4分の4拍子、ニ短調で開始されます。冒頭では、弦楽器群が主体となり、特徴的な2小節からなる音型が提示され、印象的な導入部を形成します。この冒頭の音型は、楽曲全体の随所に現れ、曲の統一感を高める役割を果たしています。

導入に続いて、独奏ファゴットが登場し、哀愁を帯びた旋律を静かに歌い始めます。この主題はファゴットの温かく柔らかな音色によって奏され、作品の中心的な楽想となります。

曲の中間部では、テンポがやや速くなり（ピウ・モッソ）、調性もニ長調へと移ります。ここでは音楽の表情が変化し、いくぶん明るく、快活な性格を帯びた楽想が展開されます。

中間部が終わると、再び主調であるニ短調へと戻ります。冒頭でファゴットによって提示された主要主題が、ここでは弦楽器群によって奏されます。これに応じるように、独奏ファゴットが主題を再現し、これを展開させていきます。終結部に向けて、冒頭で提示された特徴的な音型が再び顔を出し、これまでの楽想を回想させつつ、最後はニ長調の主和音によって静かに、そして穏やかに曲を閉じます。全体として、短時間の中にエルガーらしい抒情性と精緻な構成が見られる作品です。

もう一度検索