ファズ (音響機器)

ファズとは

音響機器におけるファズ（fuzz）とは、割れた音や雑音を表す擬音語です。英語の「fuzz」が「毛羽立った」という意味を持つように、その音色も原音に倍音が加わり、ザラザラとした特徴があります。

狭義には、1960年代中頃に商品化されたエフェクターの一種を指し、主にエレキギターの音を歪ませるために使われます。しかし、1960年代の楽曲では、エレクトリックベースやボーカルなどにも使用例が見られます。

ファズの効果は、原音には存在しない倍音（全高調波歪）を著しく付加することです。その調整によって、刺激的で耳障りな音や、濁った音色を作り出すことができます。

概要・動作原理

ファズの基本的な回路は、バイポーラトランジスタの増幅回路を基にしており、非対称歪みを発生させる構成が一般的です。これは、ギターアンプに過大入力を加えて歪ませた音を模倣するオーバードライブやディストーションとは異なる、バイポーラトランジスタ特有の音色を生み出します。

特に、ジミ・ヘンドリックスが使用した「FUZZ FACE」は、この時期のファズを代表する機種として知られています。

歴史

ファズは、登場当初のロック音楽で多用されました。1950年代のリンク・レイの楽曲には、ファズのような歪みが確認できますが、これは真空管アンプのオーバーロードによる偶然の産物でした。また、1960年に発売されたマーティー・ロビンスの「ドント・ワリー」でも、偶然によるファズが確認されています。

最初にファズエフェクターを開発したのは、グレン・スノッディーで、彼が開発した「FAZZTONE」は、レス・ポール&メアリー・フォードやグラディー・マーティンなどのギタリストに初期段階で使用されました。その後、ベンチャーズのノーキー・エドワーズも使用しています。

リッチー・ブラックモアによると、イギリスでは1960年にバーニー・ワトソンがスクリーミング・ロード・サッチのグループで、「Jack The Ripper」(1963)という曲で初めて使用したとされています。ビートルズも初期からファズに注目していましたが、ジョージ・マーティンがその音を嫌い、録音で使用されることはありませんでした。

その後、キンクス、ローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリックス、リッチー・ブラックモア、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジなど、多くのロックバンドやギタリストがファズを使用しました。

しかし、1980年代に入ると、ファズは主流のエフェクターから外れ、エレキギターの歪みは、オーバードライブやディストーションなどの機材が主流となりました。これらの機材は、ファズに比べて穏やかな音質変化を持ち、扱いが容易であるためです。

ファズの復活

ファズは一時、主流エフェクターではなくなりましたが、1990年代にZ.Vex Effects社が「Fuzz Factory」を発表したことで状況が変わります。この機種は、従来のファズと同様のシンプルな回路構成ながら、各所に制御用ツマミが設けられており、回路への供給電圧までも操作できるという革新的なものでした。

これにより、セッティング次第では、ギターを弾いていない状態でも常に発振音が鳴るような状況を作り出すことが可能になりました。このような発振音は、電子回路の設計上は好ましくないものとされますが、そのアナログ的な振る舞いが「壊れかけた」ような独特の雰囲気を醸し出し、ゲルマニウムトランジスタが持つ「古ラジオ」のような音と相まって、特徴的な効果を生み出しました。

この状況により、ファズは再びギタリストたちの関心を集めるようになりました。今日では、以前よりも多種多様なファズが製造・販売されています。現代のファズペダルには、単独で発振音を出せるセルフオシレート機能が搭載されているのが一般的です。また、ファズは回路構成が単純であることから、ハンドメイドブームの中で自作されることも多く、国内外のハンドメイドエフェクターブランドの台頭に影響を与えています。

まとめ

ファズは、その独特な音色と歴史から、ロック音楽において重要な役割を果たしてきました。一時は主流から外れたものの、その魅力は色褪せることなく、現代においても多くのギタリストに愛されています。

関連項目

キンクス

参考文献

『ロック・ギタリスト - 炸裂する音に賭ける獅子達』山本安見著 (1975年、ヤマハ音楽振興会)
『ロッキンｆ別冊・だれにもわかるエフェクター自作＆操作術'81』 (1981年、立東社刊)
デイヴ・ハンター『ギター･エフェクター実用バイブル　自分らしいサウンドを出すために　歴史と基本原理、接続＆トーン攻略まで［改訂拡大版］』（DU BOOKS、2014年）ISBN 978-4-925064-74-3

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