ファットバイナリ

ファットバイナリとは

ファットバイナリは、複数の異なるCPUアーキテクチャに対応する実行コードを一つのファイルに格納したバイナリ形式です。これにより、異なるCPUを搭載したコンピュータ上で、同じソフトウェアを動作させることが可能になります。例えば、あるソフトウェアが異なるCPUアーキテクチャ（例：x86とARM）の両方をサポートする場合、それぞれのCPU用の実行コードを別々のファイルとして配布するのではなく、一つのファットバイナリにまとめて配布することができます。

ファットバイナリの利用シーン

ファットバイナリは、主に以下のような状況で利用されます。

OSのベースCPU変更時の後方互換性維持:
OSがベースとなるCPUアーキテクチャを変更した場合、古いCPU向けのソフトウェアを新しいCPU上で動作させるためにファットバイナリが利用されます。これにより、ユーザはソフトウェアを買い換えることなく、新しい環境で既存のソフトウェアを利用できます。
異なる最適化を持つCPUのサポート:
同じアーキテクチャでも、CPUのモデルによって最適な命令セットや命令実行方法が異なる場合があります。ファットバイナリを利用することで、それぞれのCPUに最適化された実行コードを一つのファイルに含めることができ、ソフトウェアのパフォーマンスを最大限に引き出すことができます。
複数アーキテクチャのOSサポート:
OSが複数のCPUアーキテクチャをサポートする場合、それぞれのアーキテクチャ用の実行コードを一つのファットバイナリにまとめて配布することで、ユーザは自分の環境に合わせたソフトウェアを選択する手間を省くことができます。

Universal Binary

Appleが採用したPowerPCアーキテクチャとx86アーキテクチャ（Intel Mac）をサポートするバイナリは、特にUniversal Binaryと呼ばれます。これは、AppleがPowerPCからIntel x86アーキテクチャへ移行する際に、ソフトウェアの互換性を維持するために導入されました。

ファットバイナリのメリットとデメリット

ファットバイナリのメリットは、主に以下の点です。

配布・管理の容易性: 複数のアーキテクチャに対応したソフトウェアを、一つのファイルとして配布・管理できるため、ユーザは自分の環境を意識せずにソフトウェアを利用できます。
ソフトウェアの互換性: 異なるCPUアーキテクチャを搭載した環境でも、同じソフトウェアを動作させることができます。

一方、デメリットとしては、以下の点が挙げられます。

ファイルサイズの増大: 複数のアーキテクチャに対応した実行コードを一つのファイルに格納するため、ファイルサイズが大きくなります。これは、使用しないアーキテクチャのコードも含まれるためです。

ファットバイナリの実装例

macOSでは、初期にはリソースフォークのCODEリソースに実行ファイルが格納されていましたが、Power Macではデータフォークに格納する方法が採用されました。一方、Universal Binaryでは、リソースフォークはあまり使われなくなり、一つのファイルに複数のアーキテクチャのバイナリを格納する方式が取られています。

具体的には、JavaプログラムがCPUを判定し、適切なアーキテクチャのバイナリを実行します。このJavaプログラムは、Javaバイトコードとしてコンパイルされたものが、複数のバイナリの先頭に配置されています。そのため、実行ファイルをバイナリエディタなどで確認すると、Javaバイトコードであることを示すマジックナンバー(0xCAFEBABE)と、各アーキテクチャ用のマジックナンバーが確認できます。

ファイルサイズ削減のための工夫

ファイルサイズが増大するというデメリットを解消するために、不要なアーキテクチャのコードを削除するユーティリティが利用されることもあります。これにより、必要なアーキテクチャのコードのみを残し、ファイルサイズを削減することが可能です。

ファットバイナリは、異なる環境でソフトウェアを動作させるための重要な技術です。その利用は、ソフトウェアの利便性を向上させる一方で、ファイルサイズを増大させるというトレードオフがあることを理解しておく必要があります。

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