ファニー・ウォーターマン

ファニー・ウォーターマン（Fanny Waterman, 1920年3月22日 - 2020年12月20日）は、20世紀から21世紀にかけて英国を拠点に活動した傑出したピアニストであり、同時に極めて影響力の大きい音楽教育家でした。リーズの裕福な家庭に生を受けた彼女は、若くして音楽の道に進み、ロンドンの名門、王立音楽大学で学びました。そこでは、著名なピアニストであり教育者でもあったトバイアス・マテイや、シリル・スミスといった優れた師事を受け、演奏家としての確かな基盤を築き上げました。

ピアニストとしての活動に加え、ウォーターマン女史の最大の功績の一つは、その教育者としての手腕にあります。長期間にわたり、リーズ音楽大学で教鞭を執り、数多くの才能ある若手ピアニストを育成しました。彼女のもとで学んだ弟子の中には、マイケル・ロール、ポール・クロスリー、アラン・シラーといった、後に国際的な舞台で成功を収める演奏家が名を連ねています。ウォーターマン女史の指導は、厳格さの中にも温かさがあり、生徒一人ひとりの個性を見抜きながら、技術と音楽性の両面を磨き上げることに重点を置いていました。

また、ウォーターマン女史は、ピアノ学習者向けの教材開発においても革新的な取り組みを行いました。1967年以降、長年の協力者であるマリオン・ソープと共に、一連のピアノメソードを執筆し、ロンドンの著名な楽譜出版社であるフェイバー・ミュージック社から刊行しました。「Piano Lessons Book」や「Me and my piano」といったシリーズは、子供や初心者がピアノを楽しく、かつ効果的に学べるように構成されており、その分かりやすさと段階的なアプローチが評価され、世界各国で翻訳されてベストセラーとなりました。これらの教材は、今日に至るまで多くの国で愛用されており、世界中のピアノ教育において重要な役割を果たしています。

彼女の音楽界への貢献は多岐にわたりますが、特筆すべきは、世界的に権威あるリーズ国際ピアノ・コンクールの創設です。ウォーターマン女史は、1961年に再びマリオン・ソープと協力し、この国際コンクールの立ち上げを主導しました。そして1963年に第1回大会が開催されて以来、リーズ国際ピアノ・コンクールは、若手ピアニストにとって重要な国際的な登竜門としての地位を確立しました。彼女自身も、ロシアのチャイコフスキー国際コンクールなど、世界各国の主要なピアノコンクールで審査員を務め、国際的な視点から次世代の才能の発掘と育成に尽力しました。

ファニー・ウォーターマン女史の長年にわたる音楽教育への献身と、国際的な音楽界への多大な貢献は高く評価されました。リーズ大学からは名誉博士号が授与され、英国王室からはデイムの称号（Dame Commander of the Order of the British Empire, DBE）を授けられるなど、様々な栄誉に輝きました。

2020年12月20日、彼女は100歳という高齢でその波乱に満ちた生涯を終えました。ファニー・ウォーターマン女史が音楽教育に遺した足跡、すなわち多くの優れた演奏家の育成、世界中で愛されるピアノメソードの普及、そして国際的なコンクール創設を通じた若手支援は、英国のみならず世界のピアノ界に計り知れない影響を与え続けています。

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