ファハド・ビン＝アブドゥルアズィーズ

ファハド・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール・サウード：サウジアラビアの変革期を生き抜いた国王

ファハド・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール・サウードは、サウジアラビア建国の父アブドゥルアズィーズの寵愛を受けたハッサ妃の子として、1923年リヤドで誕生しました。正確な生年月日は不明です。幼少期から王室の教育を受け、その後、文相、内相を歴任するなど、政治の中枢でキャリアを積んでいきます。

1964年、ファイサル国王の即位後、ファハドは国王の信頼厚い側近として活躍し、1967年には第二副首相に就任。その手腕は内政・外交両面に渡り、特に国際情勢が大きく変化した時期には重要な役割を果たしました。1973年の第一次石油危機では、日本との関係強化に尽力し、石油供給制限の解除に貢献しました。また、アメリカ合衆国との間では、原油のドル建て決済を確立する協定を締結。これはオイルダラー体制の構築に繋がる重要な合意でした。

1975年、ファイサル国王の暗殺後、ファハドは王太子・第一副首相となり、ハーリド国王を補佐。ハーリド国王の崩御後、1982年に国王に即位します。

ファハド国王の治世は、東西冷戦終結へ向かう複雑な国際情勢の中で展開されました。ソ連のアフガニスタン侵攻に対抗するムジャーヒディーンへの支援や、親米路線を維持しつつも、イラン・イラク戦争におけるイラクへの巨額な支援など、外交政策は巧妙なバランスの上に成り立っていました。しかし、1987年のイラン・イラク戦争におけるアメリカ海軍艦艇への攻撃事件では、米軍基地の提供を拒否するなど、アメリカとの関係にも微妙な変化が見られました。また、中国からの弾道ミサイル導入も、アメリカの懸念を招くこととなります。

1991年の湾岸戦争では、多国籍軍への積極的な参加を決定。多国籍軍のアラブ連合軍司令官には、中国からのミサイル購入に貢献したハリド・ビン・スルタンを起用し、エジプトやシリアとの関係強化も図りました。この戦争において、アルカーイダのウサマ・ビン・ラーディンとの会談では、サウジアラビアへのアメリカ軍駐留反対を条件に、ムジャーヒディーンによるサウジアラビア防衛計画が提案されたものの、ファハド国王はこれを拒否しました。この決定が、後にアルカーイダの反米路線を強める一因となったことは否定できません。

1995年、脳卒中を発症し、健康状態が悪化。その後療養を続け、2005年8月1日にリヤドで崩御しました。王位は弟のアブドゥッラーが継承しました。

ファハド国王は、アブドゥルアズィーズ国王の多くの妃の中でも、ハッサ妃が産んだ7人の兄弟たち（スデイリ・セブン）と共に、サウード家内の権力基盤を築き上げました。スデイリ・セブンのメンバーには、後に国王となるサルマーンや、皇太子を務めたスルターン、ナーイフも含まれていました。しかし、ファハド国王の健康悪化を機に、スデイリ・セブンの高齢化と世代交代が進み、サウード家内の権力構造にも変化が現れ始めました。

1986年、ファハド国王は自らの称号を「二聖モスクの守護者」に変更しました。これは、世俗的な王権を控えめにして、ワッハーブ派の伝統的な宗教性を強調することで、国内の宗教的安定を図ろうとしたものと解釈できます。

ファハド・ビン・アブドゥルアズィーズの治世は、サウジアラビアが石油大国としての地位を確立し、複雑な国際情勢の中で独自の外交路線を歩み始めた時代でした。その政治的決断は、現在もサウジアラビアの政治・経済に多大な影響を与え続けています。

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