ファルコン1

ファルコン1 (Falcon 1)

ファルコン1は、アメリカ合衆国の宇宙開発企業であるスペースX社によって設計・開発された、画期的な2段式の商業用打ち上げロケットです。

概要と開発思想

このロケットの最大の特徴は、従来の宇宙ロケット開発とは一線を画すアプローチにありました。それまでの民間主導によるロケットは、退役した軍用ミサイルなどを転用する例が多かったのに対し、ファルコン1は機体と、主要部品である液体燃料ロケットエンジンを自社で新規開発した世界初の事例となりました。第一段には「マーリン」エンジン、第二段には「ケストレル」エンジンが採用され、いずれも液体酸素とケロシン（RP-1）を推進剤として使用しました。

スペースXは、打ち上げコストの大幅な削減を目指し、特に低軌道への重量あたり打ち上げ費用を最小化することを設計目標に掲げました。そのために、第一段ロケットの洋上回収と再利用を想定したシステムが設計に組み込まれていましたが、実際の打ち上げにおいて回収が実施されることはありませんでした。それでも、その設計効率化や革新的な開発手法により、当時の相場と比較して格段に低い約670万ドルという打ち上げ費用を実現し、商用ロケット市場に革命をもたらす可能性を秘めていると多くの専門家から評価されました。

また、後継機となる大型ロケット、ファルコン9との部品共通化を図ることで、開発コストを抑える工夫も凝らされていました。機体を射点まで横倒しのまま運び込み、打ち上げ前に支持タワーと共に垂直に起立させる方式を採用することで、組み立てや移動の迅速化、作業の柔軟性を高めていました。

機体構造

ファルコン1の第一段ロケットは、アルミニウム合金が主要な材料として用いられ、特に燃料タンク部には摩擦攪拌接合といった先進的な製造技術が活用されました。第一段に搭載された再利用システムは、高速落下時に展開するドローグシュートと、それに続く主パラシュートの二段階で構成されていました。この再利用によるコスト削減は、将来的な打ち上げ価格のさらなる低下を見込んでのものでしたが、前述の通り回収は実現しませんでした。

第二段ロケットには、極低温環境に耐えうるアルミニウム・リチウム合金が使用されており、軌道投入に向けた最終段階の推進を担いました。

開発の変遷と退役

ファルコン1の開発期間中にはいくつかの改良が行われました。開発初期の2006年から2007年にかけては「マーリンA」エンジンが使用されましたが、2007年以降はエンジンと機体を改良した「マーリンC」が導入されました。さらに、機体全長を延長し、推進剤搭載量を増やして搭載能力を向上させた「ファルコン1e」という派生型も計画されていました。

しかし、ファルコン1は合計5回の打ち上げを実施し、成功は2回に留まりました。特に最初の数回の打ち上げは技術的な問題や外部要因による失敗が続きました。2009年に最後の打ち上げが行われた後、スペースX社は主力事業を大型ロケットのファルコン9や宇宙船ドラゴンといった他のプロジェクトへ移すために、ファルコン1の開発・製造を一時的に停止しました。その後、ファルコン9やドラゴンの開発が順調に進んだこともあり、小型衛星打ち上げ市場の想定以下の拡大なども影響し、ファルコン1は開発が再開されることなく、事実上の退役状態となりました。2016年には、スペースXの社長がファルコン1の製造再開はもはやないとの見解を示し、小型衛星への対応はより大型のロケットを用いた相乗り打ち上げで賄う方針が示されました。

最初の打ち上げ失敗

ファルコン1の歴史で特に記憶されるのが、最初の打ち上げです。当初、エンジン不備などにより複数回延期された上、射場変更の要請もあり、最終的にマーシャル諸島のクェゼリン環礁から打ち上げられることになりました。ペイロードには、アメリカ空軍士官学校が国防高等研究事業局（DARPA）と連携して開発したプラズマ観測衛星「FalconSAT-2」が搭載されました。

幾度かの延期を経て、現地時間2006年3月25日に打ち上げられたものの、ロケットは離昇からわずか26秒後に制御を失い、41秒後には海面に落下・衝突するという結果に終わりました。機体は射場からほど近い珊瑚礁に衝突し、搭載されていた衛星は機体分離後に島の建物の屋上に落下したとされています。その後の調査で、失敗の原因は燃料パイプに使用されていたアルミ製のナットが打ち上げ時の何らかの要因で破損し、燃料漏れが発生したことであると特定されました。

主な射場予定地

ファルコン1は、人工衛星の軌道投入に有利な複数の射場を候補としていました。

ヴァンデンバーグ空軍基地
ケープカナベラル空軍基地
マーシャル諸島クェゼリン
コディアック打上げ基地
* バージニア州ワロップス飛行施設

ファルコン1は、その短い運用期間の中で多くの困難に直面しましたが、民間企業による新規ロケット開発、低コスト化、再利用の可能性といった、その後のスペースXが宇宙開発をリードしていく上での礎となる多くのコンセプトを実証した重要なロケットであったと言えます。

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