ファルコン9ブロック5

ファルコン9ブロック5は、アメリカの宇宙開発企業スペースX社が設計・製造した、一部再利用可能な中型二段式ロケットです。先行モデルであるファルコン9フル・スラストの改良版として位置づけられています。推進にはスペースX独自のマーリンエンジンが用いられ、燃料としてロケットグレードの高純度ケロシン（RP-1）と液体酸素（LOX）を使用します。

このブロック5モデルの開発は、主にNASAの商業乗員輸送計画や国家安全保障に関わる打ち上げ要件を満たすために推進されました。その結果、以前のブロック3やブロック4からの大幅な性能向上が図られています。主要な変更点としては、エンジン推力の増強（初期のモデルと比較して約7〜8%向上）や着陸脚の構造強化が挙げられます。加えて、数多くの細かな改良が施されており、これらは特に第1段ブースターの回収・再利用をより効率的かつ確実に行うことに焦点を当てています。具体的には、製造プロセスの効率化と再利用にかかる手間やコストの削減が重視されました。

ブロック5の設計思想の核にあるのは、高い再利用性と信頼性です。設計目標として、特別な整備を行うことなく10回の再使用に耐えること、そして大規模なリファビッシュ（改修）を行えば最大100回の飛行に耐えることが掲げられました。この目標達成のため、以下のような技術的な工夫が凝らされています：

再突入時の熱からエンジンや配管を保護するための、再利用可能な耐熱シールドをロケット基部に搭載。
従来のアルミ合金製に比べ、熱により強く鋳造・機械加工されたチタン製グリッドフィンを採用。
再突入時の熱損傷を軽減するため、着陸脚、配線管、段間部などに耐熱コーティングを施し、特に黒色の部分は耐熱保護層としての役割も兼ねます。
より堅牢で長寿命化されたバルブを再設計・再検証して使用。
タンク構造内での酸素の凍結による破裂を防ぐため、ヘリウム用の複合材オーバーラップ圧力容器（COPV）を再設計した「COPV 2.0」を導入（初期のブロック5では未搭載の場合あり）。

また、迅速な再利用を可能にするための改善も行われました：

フライト間の整備・改修作業を大幅に削減。
回収・輸送を容易にするための格納式着陸脚の採用。
製造時間を短縮するため、主要構造の一部（オクタウェブ構造）を溶接ではなくボルト締結に変更。

ブロック5は2018年に製造が開始され、同年5月11日のBangabandhu-1衛星打ち上げミッションで初飛行を成功させました。これにより、ファルコン9の主力モデルは順次ブロック5へと移行し、同年6月29日のCRS-15ミッションを最後にブロック4の運用は終了しました。

ブロック5のデビュー後も、スペースXは継続的に設計や運用手順の改良を進めています。例えば、先述のCOPV 2.0タンクは初期のブースターには搭載されていませんでしたが、2018年後半から順次導入されました。また、ロケットの性能を最大限に引き出すため、エンジンのスロットル設定や段分離のタイミングなど、飛行制御の微調整も繰り返されています。比較的新しいブロック5ブースターは飛行準備がより容易であるため、使い捨てとなるミッションでは、可能な限り古い製造ロットのコア（第1段）を使用する運用も行われています。

さらに、第2段の性能に関しても改良が見られます。例えば、CRS-18ミッションで使用された第2段では、静止軌道や高エネルギー軌道への直接投入に必要な耐久性を高めるため、熱制御用の黒色塗装帯、加圧制御用の追加COPV、点火剤の追加といった「ミッション延長キット」が導入されました。一方で、Transporter-7ミッションでは、打ち上げ頻度向上とコスト削減を目的とした短いMVacノズル延長部が試験的に採用されました。これは全性能を必要としないミッションに限定して使用される設計です。

ファルコン9ブロック5は、NASAの有人宇宙飛行ミッションにも対応可能なロケットとして設計されています。NASAの認証プロセスでは、有人飛行を行うロケットは大きな設計変更なく複数回の飛行実績を積むことが求められます。ブロック5は、2020年5月30日に実行されたCrew Dragon Demo-2ミッションにおいて、史上初めて民間企業が運用するロケットとして宇宙飛行士を軌道へ送り出すことに成功しました。これは、2011年のスペースシャトル退役以来となるアメリカ合衆国からの有人軌道宇宙飛行でもあり、宇宙開発の歴史において非常に重要な出来事となりました。

ファルコン9ブロック5は、スペースXが目指す宇宙輸送の低コスト化と頻度向上を実現する上で、現在の主力として極めて重要な役割を果たしています。その高い再利用性能と信頼性は、商業宇宙産業と有人宇宙探査の発展に大きく貢献しています。

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