ファースト・ナショナル・ピクチャーズ

ファースト・ナショナル・ピクチャーズ：映画史における興亡

ファースト・ナショナル・ピクチャーズは、1917年に設立されたアメリカの映画製作・配給会社です。その始まりは、独立系劇場経営者たちの連合体であるファースト・ナショナル・エキシビターズ・サーキットでした。パラマウント・ピクチャーズが市場を席巻する状況に対抗するため、劇場主たちが結束し、映画の自主的な購入、製作、配給を目指したのです。

独立系劇場からの出発

トーマス・L・タリーの発案により、全米の主要な劇場チェーン26社が合併。最終的に600以上の劇場を支配下に置き、そのうち200館以上が封切館という、当時としては巨大なネットワークを築き上げました。これは、収益性の高い封切館を基盤に、映画興行における確固たる地位を確立することを意味していました。

スターとの契約、そして映画製作へ

ファースト・ナショナルは、メアリー・ピックフォードやチャールズ・チャップリンといった大物スターと契約を結び、映画界にその名を知らしめました。特にチャップリンとの契約は、映画史上初の100万ドル契約として話題を呼びました。チャップリンには、公開スケジュールに縛られず自由に映画製作を行う権利が与えられましたが、長編映画『キッド』の製作が長引いた際には、会社側から苦情が出ることもありました。

1924年、ファースト・ナショナルは配給業務に加え、映画製作にも乗り出します。カリフォルニア州バーバンクに広大なスタジオを建設し、映画製作会社としての地位を確立しました。しかし、その勢力拡大は、他の大手スタジオとの対立を招き、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）やパラマウントとの間で激しい競争が繰り広げられました。

ワーナー・ブラザースによる買収、そして終焉

1928年、ワーナー・ブラザースがファースト・ナショナルの支配権を取得しました。これは、ワーナー・ブラザースが当時成功を収めていたサウンドシステム、ヴィタフォンへのアクセスを得るためであり、ファースト・ナショナルにとっては、大手スタジオの傘下に入ることで、より安定した経営基盤を築くことができるというメリットがありました。買収後も、ファースト・ナショナルのブランドはしばらくの間、ワーナー・ブラザース製作作品の配給に使用されました。

しかし、1936年7月、ファースト・ナショナル・ピクチャーズ株式会社は解散。その資産は株主間で分配され、会社としての歴史に幕を閉じました。ただし、その後も一部の作品はファースト・ナショナルのブランドで公開され、その名前は映画史に刻まれました。

映画史における足跡

ファースト・ナショナル・ピクチャーズは、独立系劇場経営者の連合体から大手映画スタジオへと発展し、その後大手スタジオに吸収されるという、映画業界の変遷を象徴する存在でした。チャップリンのような才能を支援し、映画史に残る名作を世に送り出す一方で、大手スタジオとの競争や経営戦略の転換など、様々な課題に直面しました。その興亡は、映画業界のダイナミズムと、ビジネスとしての厳しさを物語っています。

ファースト・ナショナルの歴史は、映画史における重要な一章として、今後も語り継がれていくことでしょう。

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