フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ

フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ

フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ（Juan Bautista Martinez del Mazo, 1612年頃 - 1667年2月10日）は、バロック期のスペインを代表する画家です。彼は巨匠ディエゴ・ベラスケスの弟子として知られ、その画風を最もよく受け継ぎました。しかし、デル・マーソは単なる模倣者ではなく、風景画においても優れた才能を発揮し、独自の地位を確立しました。

生涯

マルティネス・デル・マーソの初期の人生については、詳しい記録が残っておらず、出生地や正確な出生日も不明です。両親がクエンカ出身であることから、クエンカ県で生まれた可能性が高いとされていますが、マドリード出身という説もあります。母親の生年と彼の結婚時期から推測すると、1612年頃の生まれと考えられています。

絵画の修行場所もはっきりとはわかっていませんが、結婚以前からベラスケスの工房にいたことは確実です。義理の父となるベラスケスの下で修業を積んだ可能性が高いでしょう。1633年、デル・マーソはベラスケスの娘フランシスカ・デ・シルバ・ベラスケス・イ・パチェコと結婚しました。この結婚は、フェリペ4世と有力者ガスパール・デ・グスマンが保証人を務めるという、将来の宮廷での成功を約束するものでした。結婚後間もなく、ベラスケスはデル・マーソを王の私室の取次係に任命し、その才能と義理の息子への期待を示しました。

宮廷画家としての活躍

1643年、デル・マーソはスペイン王太子バルタサール・カルロス・デ・アウストリアの専属画家となりました。王太子はデル・マーソの子供の名付け親にもなっています。王太子からの依頼で、フランドルの画家たちの作品の複製を制作しました。1646年には、王太子に同行してアラゴンへ赴き、その際に代表作である『サラゴサ眺望』や、王太子の最後の肖像画を描きました。王太子の急死後も、フェリペ4世はデル・マーソを宮廷画家として雇用し続けました。

デル・マーソは、ティントレット、ティツィアーノ、パオロ・ヴェロネーゼといったヴェネツィアの巨匠たちの作品の複製を制作し、その才能を開花させました。これらの作品を通じて、彼はルーベンスやヨルダーンスといった同時代の巨匠たちの表現様式も学びました。複製画の制作に多くの時間を費やしたため、自身の作品を描く時間は限られていましたが、それでもデル・マーソは自然主義的な画家としての才能も磨き続けました。

デル・マーソは自身の作品にサインをすることがほとんどなかったため、彼の作品はベラスケスの作品と混同されることが多くありました。今日、彼の作品として確実なものとして認められているのは、『サラゴサ眺望』、『喪服姿のスペイン王妃マリアナ』、『画家の家族』などごくわずかです。これらの作品は、プラド美術館をはじめとする主要な美術館に所蔵されています。

デル・マーソは肖像画家として優れた技術を持っていましたが、彼の最も優れた作品の中には、狩猟の場面や風景画があり、そこには細部にまでこだわった多くの人物の姿が生き生きと描かれています。特に『サラゴサ眺望』や『アランフエスでの狩猟上覧』などは、彼の優れた観察眼と描写力を示しています。また、デル・マーソはいくつかの静物画も残しています。1657年には、長女の持参金を取り戻すためにイタリアへ旅し、その際にはローマのティトゥスの凱旋門を描いた作品も残しました。

画風

デル・マーソの画風は、師であるベラスケスの影響を強く受けていますが、独自の個性を確立しています。肖像画は驚くほどの写実性を持ち、風景画や狩猟の場面では、細密な描写と生き生きとした人物表現が特徴です。

デル・マーソの色彩はベラスケスを踏襲していますが、青色を強調する傾向がありました。また、光を巧みに操り、背景から前景に向かって光を当てることで、人物や物体を立体的に表現しました。遠近法を効果的に用いることで、空間の奥行きを強調し、構図に奥行きを持たせています。さらに、平らな地面、川面、床、カーテンなどの描写や、モデルの軽やかな筆遣いは、ベラスケスとは異なる独自の表現です。

デル・マーソの作品は、長年ベラスケスの作品とされてきましたが、近年、美術研究の進歩により、彼の作品であることが明らかになってきました。彼の弟子には、ベニート・マヌエル・アグエロがいます。

宮廷画家として

ベラスケスの存命中、デル・マーソの作品は義父の工房で制作されました。ベラスケスの死後、1661年にデル・マーソは正式に宮廷画家に任命され、息子ガスパールは王室配室役に任じられました。フェリペ4世の死後も、デル・マーソは王妃マリアナの庇護のもと、宮廷画家としての地位を維持しました。この時期には、マルガリータ・テレサが嫁ぐ前に、喪服を着た彼女の肖像画を描きました。デル・マーソは1667年に亡くなるまで、宮廷画家として活躍し続けました。

子孫

デル・マーソは、最初の妻フランシスカ・デ・シルバ・ベラスケス・イ・パチェコとの間に6人の子供を儲けました。フランシスカは末子出産後に亡くなりました。その後、デル・マーソは再婚し、4人の息子をもうけましたが、1665年には死別しました。三度目の妻は、義妹にあたるアナ・デ・ラ・ベガでした。娘のマリア・テレサ・マルチネス・デル・マーソ・イ・ベラスケスは、モンテレオーネ侯爵家の祖先となり、そこから多くのヨーロッパの王族へと血筋がつながっています。

脚注

参考文献

Lopez- Rey, Jose, Velazquez, Taschen, 1999. ISBN 3-8228-6533-8.
Mallory, Nina A, El Greco to Murillo: Spanish painting in the Golden Age, 1556?1700 ,Icon Editions,1990. ISBN 0-06-435531-4.
Madrazo, Pedro de (1872). Catalogo Descriptivo e Historico del Museo del Prado de Madrid (Parte Primera: Escuelas Italianas y Espanolas). Calle del Duque de Osuna #3; Original from Oxford University, Digitized May 1, 2007: M. Rivadeneyra. pp. 442-444. https://books.google.com/books?id=Tu8HAAAAQAAJ&pg=PP7&dq=Catalogo+Prado+Madrazo&as_brr=1
大高保二郎『ベラスケス 宮廷のなかの革命者』岩波書店〈岩波新書〉、2018年5月23日。ISBN 978-4004317210。
大高保二郎『ベラスケス』新潮社〈新潮美術文庫 (12)〉、1974年8月1日。ISBN 978-4106014123。

外部リンク

Juan Bautista Martinez del Mazo on Artcyclopedia

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