フアード・シハーブ

フアード・シハーブ: レバノンの大統領

フアード・シハーブ（1902年3月19日 - 1973年4月25日）は、レバノン共和国の政治家として、特に1958年から1964年までの大統領在任期間で知られています。彼は高貴な家系のキリスト教マロン派の家庭に生まれ、その後レバノン陸軍の司令官としてキャリアを積みました。

陸軍時代

シハーブは1945年に陸軍の司令官に任命され、その後、政治と軍の接点において重要な役割を果たしました。1952年、ビシャーラ・アル＝フーリー政権が汚職スキャンダルで辞職に追い込まれた際、シハーブは陸軍が政治に関与することを拒む姿勢を貫きました。フーリー退任後の短期間、シハーブは暫定政府の指導者として、公正な大統領選挙を行う役割を果たしました。最終的にカミール・シャムーンが新大統領となりましたが、この経験は後の政治キャリアに影響を与えました。

1957年、シャムーン政権の選挙において、シーア派やドゥルーズ派などのイスラーム勢力が苦境に立たされ、国内では発生した暴動が社会の安定を脅かしました。シハーブはその際、シャムーンからの暴動鎮圧の要請を断り、事態の悪化を避けようとしました。この対応が後に影響を持つことになります。

大統領時代

1958年、大統領選挙に立候補し当選を果たしたシハーブは、就任時に「革命には勝者も敗者もいない」と述べ、和解と安定を目指しました。彼が大統領に就任して以降、レバノンはある程度の安定を見せ、改革への道が開かれました。しかし、議会は彼に1964年までの任期を全うすることを求め、彼は再び国政に携わることとなります。

シハーブは情報局の強化を進め、特にシリア社会国家主義党やパレスチナ難民に対する監視を強化しました。彼の治安対策は一部から反民主的な批判を受けましたが、それでも宗派間のバランスをとることに腐心し、対話路線を推進しました。

彼の政策は、社会インフラの整備や地方の発展に寄与しましたが、地方住民の貧困が背景にあり、結果としてベイルートへの人口移動が進むこととなりました。急速な都市化が進む中で、再び国内での不満が高まることになり、彼のバランス政策は徐々に限界に達しました。

シハーブは、ナーセル主義への理解を深め、国内のムスリムに対する配慮としてその姿勢を示しました。しかし同時に、アメリカやフランスとの関係を巡る難しいバランスを取らざるを得なくなり、対外政策はより複雑な展開を迎えました。

大統領引退とその後

1964年、シハーブは次期大統領選挙への立候補を促されましたが、反シハーブ勢力の台頭により、次期大統領にはシャールル・ヘローが選出されることとなりました。シハーブはヘローの政治手法に不満を持ちつつも、彼の政権がレバノンで直面する治安問題に対応できなかったことも影響しています。

シハーブの後継者に指名したイリヤース・サルキースは大統領選挙で敗北し、彼自身の政治的影響力は限られることになりました。1973年4月、シハーブはベイルートで亡くなり、71歳で歴史の舞台に幕を下ろしました。彼の政治手法や理念は、後のレバノンにおける内戦の混乱を背景に、再評価されることとなります。

シハーブの在任期間は、レバノンの中立政策と国際的な干渉を避ける努力の象徴であり、その精神は後に続く指導者たちにとっても重要な教訓となりました。

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