フィオレンツァ・コッソット

フィオレンツァ・コッソット（Fiorenza Cossotto）は1935年4月22日、イタリア北部のピエモンテ州にあるクレシェンティーノの地に生を受けた、20世紀後半を代表するオペラ歌手の一人です。幼い頃から音楽への才能を示し、トリノ国立音楽学校で声楽を専攻。その傑出した能力は早くから認められ、同校を最優等の成績で修了しました。

プロフェッショナルとしてのキャリアは、イタリアオペラの最高峰とされるミラノ・スカラ座の舞台から始まりました。1955年、若きコッソットはスカラ座でのデビューを果たし、その才能を開花させました。イタリア国内での成功に続き、彼女の歌声は国境を越えて響き渡ります。1964年にはアメリカ合衆国で舞台に立ち、活動の場を世界へと広げました。

特に録音の分野でも顕著な実績を残しており、ジュゼッペ・ヴェルディ作曲の歌劇『マクベス』全曲録音において、マクベス夫人の難役を見事に歌い上げた功績は高く評価され、ゴールド・ディスクの栄誉に輝いています。これは彼女の表現力と技術が、音源としても多くの聴衆に届けられ、支持された証と言えるでしょう。

コッソットは特にメゾソプラノのレパートリーにおいて、強烈な存在感と深い表現力で多くの聴衆を魅了しました。彼女が自身の芸術性を最も発揮したとされる役柄は数多くありますが、中でも特筆すべきは、ヴェルディの傑作『アイーダ』におけるエジプト王女アムネリス、同じくヴェルディのオペラ『仮面舞踏会』に登場する占い師ウルリカ、ピエトロ・マスカーニ作曲のヴェリズモ・オペラの代表作『カヴァレリア・ルスティカーナ』の主人公サントゥッツァ、そしてジョルジュ・ビゼー作曲の不朽の名作『カルメン』のタイトルロールです。これらの役はいずれも強い情熱や複雑な感情を持つ女性像であり、コッソットはそれぞれを見事に歌い分け、観客に深い感銘を与えました。その声は力強く、同時に繊細なニュアンスにも富み、役柄の内面を鮮やかに描き出しました。

日本においても、フィオレンツァ・コッソットはその素晴らしい歌声と舞台姿で、多くのオペラファンを魅了しました。特にNHKが主催したイタリア歌劇団の公演において、彼女は重要な役割を担いました。初来日は1971年の第6次公演で、ヴィンチェンツォ・ベッリーニの『ノルマ』、そしてガエターノ・ドニゼッティの『ラ・ファヴォリータ』といったベルカント・オペラの傑作で主役級の役を演じ、日本の聴衆に鮮烈な印象を与えました。その後も、1973年の第7次公演では再びヴェルディの『アイーダ』でアムネリス役を、1976年の第8次公演ではマスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』でサントゥッツァ役、さらにフランチェスコ・チレアの『アドリアーナ・ルクヴルール』にも出演するなど、短期間のうちに度々日本の舞台に立ちました。これらの来日公演を通じて、彼女は当時のNHKイタリア歌劇団にとって欠かせない存在となり、日本のオペラ界に貴重な足跡を残しました。その力強くも情感豊かな歌唱は、当時の日本のオペラファンにとって忘れられない記憶となっています。

長きにわたり世界のオペラ界で活躍を続けたコッソットは、その健在ぶりも示しています。2005年には生誕70周年を記念し、ベルギーや日本の東京、大阪などで記念リサイタルを開催しました。これらの公演は、往年の名歌手の歌声を再び聴く機会となり、多くのファンに喜びをもたらしました。フィオレンツァ・コッソットは、その圧倒的な歌唱力と豊かな表現力で、20世紀後半のオペラ史に確固たる地位を築いた偉大な声楽家です。彼女の残した録音や舞台の記憶は、今なお世界中のオペラ愛好家によって語り継がれています。

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