フィヨルドランド国立公園

フィヨルドランド国立公園（Fiordland National Park）は、ニュージーランド南島南西部のフィヨルドランドとして知られる地域に位置する、国内最大の国立公園です。総面積は約12,500平方キロメートルに及び、ユネスコの世界遺産「テ・ワヒポウナム-南西ニュージーランド」の広大な部分を構成しています。周辺の国立公園と共に、1986年に自然遺産として世界遺産リストに登録され、その貴重な自然環境が国際的に認められています。公園は、特に南半球を代表するフィヨルドであるミルフォード・サウンドの壮麗な景観や、登山愛好家を引きつける険しい山岳地帯で世界的に知られています。

地理と自然

公園内には、太古の氷河活動によって深く刻まれた壮大なフィヨルド地形が広がっており、その中でも特に有名なのがミルフォード・サウンドです。他にも、静寂に包まれたダウトフル・サウンドや、より手つかずの自然が残るダスキー・サウンドなど、数多くの魅力的な景観地が存在します。フィヨルドランドの沿岸部は、氷河によって削られたフィヨルド地形と、ケプラー山やマーチソン山といったサザン・アルプスの山々が複雑に組み合わさることで、非常に険しい様相を呈しています。公園の北部には、標高2000メートルを超える地点もあり、壮大な山岳景観を楽しむことができます。また、氷河の浸食作用は地形を深く削り取り、セクレタリー島やレゾリューション島などの島々も生み出しました。

内陸部には、テ・アナウ湖、マナポウリ湖、モノワイ湖、ハウロコ湖、ポテリテリ湖といった、ニュージーランド国内でも特に広大な湖が点在し、多様な水辺の生態系を育んでいます。

タスマン海から吹き付ける冷たい偏西風は、公園内の高い山々に阻まれ、湿った空気が冷やされることで大量の降雨をもたらします。この豊富な雨水は、園内の至る所で無数の滝を形成しており、中でもサザランド滝は落差248メートルを誇るニュージーランド最長の滝として有名です。このような湿潤な気候は植物の成長を強く促し、公園内には「フィヨルドランド多雨林」と呼ばれる独自の温帯雨林が広がり、豊かな植生を見せています。

人間活動の歴史とヘリコプター・ハンティング

フィヨルドランド国立公園の歴史には、人間による独特な活動の一幕があります。1920年代、ヨーロッパから持ち込まれた外来種であるシカが園内で爆発的に繁殖し、固有の動植物を含む生態系全体への深刻な影響が懸念されました。これに対処するため、政府はシカの個体数管理の一環として、公園内にシカ猟の許可区域を設定しました。1960年代に入ると、シカの肉や皮の需要が増加したことで、このシカ狩りが商業的な事業として成り立ち始めます。

公園の険しい山岳地帯での徒歩による狩猟は困難が伴うため、効率的な手段としてヘリコプターが導入されるようになります。これにより、シカの駆除は進みましたが、同時に新たな問題も生じました。シカの数が減少するにつれて、残された個体を巡るハンター間の競争が激化。ついには、ヘリコプターを用いたハンター同士による危険な競合が発生する事態に発展しました。この状況を重く見た政府は、家畜としてのシカの飼育を奨励するなど、野生シカに対するヘリコプターを用いた商業的な狩猟を抑制する対策を実施しました。

現在、かつてシカ狩りに使用されていたヘリコプターの多くは、壮大なフィヨルドや山岳景観を空から楽しむ観光客を輸送するために活用されており、地域の経済に貢献しています。フィヨルドランド国立公園は、厳しい自然環境と人間の活動が織りなす多様な物語を持つ場所であり、その保護と利用のバランスが常に求められています。

フィヨルドランド国立公園は、その手つかずの自然、独特の地形、そして歴史的な背景を通して、訪れる人々に忘れられない体験を提供し続けています。世界遺産としての価値を保全しながら、未来へとこの貴重な自然を引き継ぐ努力が続けられています。

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