フィリップ・マリャーヴィン

フィリップ・マリャーヴィン（1869年10月10日 - 1940年12月23日）は、ロシア帝国出身の画家です。農民階級の生まれであり、その出自を背景にした独自の画風で知られています。彼の人生は、イコン画家としての修行から始まり、写実主義の巨匠イリヤ・レーピンに師事するという、劇的な変化に満ちていました。

生い立ちとイコン画家への道

マリャーヴィンは、ロシア東部のオレンブルク州の貧しい農村で生まれました。幼少期から絵を描くことに情熱を燃やし、村を訪れる巡回僧が携えるイコンに魅了されました。16歳になると、村人からの援助を受けて、イコン制作の中心地であったギリシャのアトス山へと旅立ちます。しかし、アトス山ではイコン制作の機会に恵まれず、帰国資金も尽きてしまったため、修道院の見習いとして働きながらイコンや壁画を描いて過ごしました。

画家への転身とレーピンとの出会い

1891年、マリャーヴィンはアトス山でサンクトペテルブルク美術アカデミーの教授で彫刻家のウラジーミル・ベクレミシェフと出会います。マリャーヴィンの才能に感銘を受けたベクレミシェフは、彼をサンクトペテルブルクに招き、美術アカデミーに入学する機会を与えました。1894年には、アカデミーの制度改革により、指導教授を自由に選べるようになったため、マリャーヴィンは写実主義の巨匠イリヤ・レーピンを選びました。

レーピンのもとで、マリャーヴィンはロシアの農民女性などを描き始め、この頃から、彼の作品の特徴である「マリャービンの赤」と呼ばれる鮮烈な赤色を多用するようになります。彼の作品はモスクワ美術愛好者協会の展覧会に出品され、美術収集家のパーヴェル・トレチャコフに買い上げられ、トレチャコフ美術館で展示されるなど、高い評価を得ます。また、コンスタンチン・ソモフといった同世代の画家たちの肖像画も手がけました。

パリでの成功と国際的な評価

1900年以降、マリャーヴィンはパリに拠点を移して活動を始めます。フランスの新聞から称賛される一方、ロシアでは必ずしも受け入れられなかった作品も、パリでは展覧会で金メダルを受賞し、ヴェネツィアの近代美術館やパリのリュクサンブール美術館に購入されるなど、国際的な評価を得ました。

結婚と晩年

ロシアに帰国後、マリャーヴィンはオデッサ出身の裕福な実業家の娘で、画学生だったナタリア・ノヴァク＝サリッチと結婚しました。その後、リャザン近くの村に住み、『芸術世界』のグループ展などに出展しました。1922年からは国外に出て各地で個展を開き、1940年にフランスのニースで生涯を閉じました。

作品の特徴

マリャーヴィンの作品は、鮮やかな色彩と大胆な筆致が特徴です。特に、彼の作品に多用される「マリャービンの赤」は、観る者に強い印象を与えます。彼は、ロシアの農村風景や農民の生活、踊りの様子などを描くことが多く、その作品は、力強く生命力にあふれています。代表作としては、ロシア農民の踊る姿を描いた「疾風(Вихрь)」などが挙げられます。

マリャーヴィンの遺産

フィリップ・マリャーヴィンは、ロシア美術史において、独自の地位を築いた画家です。彼の作品は、ロシアの伝統的な美術と西欧の近代的な美術の融合を試みたものとして、高く評価されています。また、彼の鮮烈な色彩感覚と大胆な表現は、後の世代の画家たちに大きな影響を与えました。

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