アトス山
アトス山は、ギリシャ北東部のエーゲ海に突き出したアトス半島の先端にそびえる標高2,033mの山であり、その周辺地域は正教会の聖地として「聖山」とも呼ばれています。この地には現在20もの修道院が存在し、東方正教の一大中心地としての役割を果たしています。アトス山という名称は、聖地である半島全域や修道士たちの共同体を指すこともあります。
アトス半島は、マケドニア地方からエーゲ海に突き出したハルキディキ半島から分かれる3つの半島のうち、最北東に位置します。この半島は、幅が8kmから12km、長さが約40kmで、面積は約385平方キロメートルです。アトス山は半島の先端に位置し、その標高は2,033mに達します。アトス山から連なる険しい稜線は、海岸線を崖や岩場で形成し、手つかずの自然が残されています。
アトス山へのアクセスは、ギリシャ本土と陸路で繋がっているものの、ウラノポリから船か徒歩のみです。訪問者の数と滞在期間は制限されており、入山には許可証が必要です。正教徒は優先されますが、ギリシャ国籍以外の場合は1日の入山者が8名に制限されています。また、1406年以降、女人禁制となっており、女性の入山は認められていません。居住は18歳以上の男性正教徒に限られています。
アトス山の険しい海岸は、ペルシャ戦争でアケメネス朝の遠征軍が遭難した場所としても知られています。古代には人が住み、いくつかの都市があったと記録されていますが、これらの都市の位置は特定されていません。修道士が住み始めた8世紀末から9世紀初頭には、これらの都市は既に放棄されていたとされています。
アトス山に修道士が住み始めた正確な時期は不明ですが、9世紀以降の文献には記述が見られます。伝承によると、生神女マリアが嵐を避けてアトスに上陸した際、その美しさに魅了され、自らの土地としたとされています。9世紀中期には、修道士の草庵が散在していましたが、862年にテッサロニキのエフスィミオスが修道士の集団を組織し、修道院設立の先鞭をつけました。870年頃には、最初の共同居住型の修道院が建設され、961年にはメギスティ・ラヴラ修道院が建設され、修道院建設が活発化しました。1001年には46の修道院が存在し、多くが荘園を所有する大領主のようになっていました。
1204年、第4回十字軍によってラテン帝国が成立し、アトス半島はテッサロニキ王国に組み込まれました。修道院は荘園を没収されましたが、東ローマ帝国の再興後に返還されました。しかし、東西教会の統一に反対したため迫害を受け、1305年には傭兵によって略奪を受けました。14世紀中期にはオスマン軍の略奪も頻発しました。東ローマ帝国の影響力が衰えた後、ブルガリアやセルビアなど東欧諸国からの寄進により修道院は再び活力を得ました。1382年にはオスマン帝国の勢力下に入り、1453年には東ローマ帝国が滅亡しましたが、オスマン帝国は修道院の自治と宗教活動を認め、19世紀まで東欧諸国からの寄進が続きました。
20世紀、アトス山修道院は最大の危機を迎えました。1923年には、希土戦争終結によって土地が没収され、1944年には共産主義者による弾圧を受けました。現在は、ヨーロッパ各地からの支援を受けて存続していますが、女人禁制についてEUから非難を受けています。修道院内では、家畜も雄に限定され、ネズミ退治の猫のみが雌として存在を許されています。修道士は生涯アトス山から出ないことが多く、女性を見る機会はほとんどありません。2016年には、ロシアのプーチン大統領とキリル1世モスクワ総主教がアトスを訪問しました。
アトス山の修道院はコンスタンディヌーポリ全地総主教庁の管轄下にありますが、暦はユリウス暦を使用しています。バチカンと同様に宗教中心地として自治を行っていますが、経済活動は行われていません。行政上の主席は、ラヴラ、ヴァトペディ、イヴィロン、ヒランダル、ディオニシウの5つの修道院から交代で選出されます。
アトス山には多くの修道院がありますが、その建築様式はまだ詳細に調査されていません。おそらくカリエスのプロタトンが最も古い建築物で、内接十字型教会堂です。メギスティ・ラヴラ修道院の中央聖堂は三葉型を原型としており、他の多くの主聖堂の規範となっています。
主な修道院は以下の通りです。
メギスティス・ラヴラ修道院
ヴァドペディ修道院
イヴィロン修道院
ヒランダリウ修道院
ディオニシウ修道院
クトゥルムシウ修道院
パントクラトール修道院
クシロポタムウ修道院
ゾクラフウ修道院
ドヒアリウ修道院
カラカル修道院
フィロテウ修道院
シモノス・ペトラ修道院
アギウ・パヴル修道院
スタヴロニキタ修道院
クセノフォンドス修道院
オシウ・グリゴリウ修道院
エスフィグメヌ修道院
聖パンテレイモン修道院
カスタモニトゥ修道院
アトス山は、以下の世界遺産登録基準を満たしています。
(1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
(5) ある文化を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの。
(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
アトス山は、その独自の歴史、文化、そして自然の美しさから、世界的に重要な場所として認識されています。
地理
アトス半島は、マケドニア地方からエーゲ海に突き出したハルキディキ半島から分かれる3つの半島のうち、最北東に位置します。この半島は、幅が8kmから12km、長さが約40kmで、面積は約385平方キロメートルです。アトス山は半島の先端に位置し、その標高は2,033mに達します。アトス山から連なる険しい稜線は、海岸線を崖や岩場で形成し、手つかずの自然が残されています。
アクセス
アトス山へのアクセスは、ギリシャ本土と陸路で繋がっているものの、ウラノポリから船か徒歩のみです。訪問者の数と滞在期間は制限されており、入山には許可証が必要です。正教徒は優先されますが、ギリシャ国籍以外の場合は1日の入山者が8名に制限されています。また、1406年以降、女人禁制となっており、女性の入山は認められていません。居住は18歳以上の男性正教徒に限られています。
歴史
キリスト教以前
アトス山の険しい海岸は、ペルシャ戦争でアケメネス朝の遠征軍が遭難した場所としても知られています。古代には人が住み、いくつかの都市があったと記録されていますが、これらの都市の位置は特定されていません。修道士が住み始めた8世紀末から9世紀初頭には、これらの都市は既に放棄されていたとされています。
修道院の設立
アトス山に修道士が住み始めた正確な時期は不明ですが、9世紀以降の文献には記述が見られます。伝承によると、生神女マリアが嵐を避けてアトスに上陸した際、その美しさに魅了され、自らの土地としたとされています。9世紀中期には、修道士の草庵が散在していましたが、862年にテッサロニキのエフスィミオスが修道士の集団を組織し、修道院設立の先鞭をつけました。870年頃には、最初の共同居住型の修道院が建設され、961年にはメギスティ・ラヴラ修道院が建設され、修道院建設が活発化しました。1001年には46の修道院が存在し、多くが荘園を所有する大領主のようになっていました。
中世
1204年、第4回十字軍によってラテン帝国が成立し、アトス半島はテッサロニキ王国に組み込まれました。修道院は荘園を没収されましたが、東ローマ帝国の再興後に返還されました。しかし、東西教会の統一に反対したため迫害を受け、1305年には傭兵によって略奪を受けました。14世紀中期にはオスマン軍の略奪も頻発しました。東ローマ帝国の影響力が衰えた後、ブルガリアやセルビアなど東欧諸国からの寄進により修道院は再び活力を得ました。1382年にはオスマン帝国の勢力下に入り、1453年には東ローマ帝国が滅亡しましたが、オスマン帝国は修道院の自治と宗教活動を認め、19世紀まで東欧諸国からの寄進が続きました。
近代・現代
20世紀、アトス山修道院は最大の危機を迎えました。1923年には、希土戦争終結によって土地が没収され、1944年には共産主義者による弾圧を受けました。現在は、ヨーロッパ各地からの支援を受けて存続していますが、女人禁制についてEUから非難を受けています。修道院内では、家畜も雄に限定され、ネズミ退治の猫のみが雌として存在を許されています。修道士は生涯アトス山から出ないことが多く、女性を見る機会はほとんどありません。2016年には、ロシアのプーチン大統領とキリル1世モスクワ総主教がアトスを訪問しました。
行政
アトス山の修道院はコンスタンディヌーポリ全地総主教庁の管轄下にありますが、暦はユリウス暦を使用しています。バチカンと同様に宗教中心地として自治を行っていますが、経済活動は行われていません。行政上の主席は、ラヴラ、ヴァトペディ、イヴィロン、ヒランダル、ディオニシウの5つの修道院から交代で選出されます。
修道院
アトス山には多くの修道院がありますが、その建築様式はまだ詳細に調査されていません。おそらくカリエスのプロタトンが最も古い建築物で、内接十字型教会堂です。メギスティ・ラヴラ修道院の中央聖堂は三葉型を原型としており、他の多くの主聖堂の規範となっています。
主な修道院は以下の通りです。
メギスティス・ラヴラ修道院
ヴァドペディ修道院
イヴィロン修道院
ヒランダリウ修道院
ディオニシウ修道院
クトゥルムシウ修道院
パントクラトール修道院
クシロポタムウ修道院
ゾクラフウ修道院
ドヒアリウ修道院
カラカル修道院
フィロテウ修道院
シモノス・ペトラ修道院
アギウ・パヴル修道院
スタヴロニキタ修道院
クセノフォンドス修道院
オシウ・グリゴリウ修道院
エスフィグメヌ修道院
聖パンテレイモン修道院
カスタモニトゥ修道院
登録基準
アトス山は、以下の世界遺産登録基準を満たしています。
(1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
(5) ある文化を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの。
(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
アトス山は、その独自の歴史、文化、そして自然の美しさから、世界的に重要な場所として認識されています。
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