フィリップ・J・デイヴィス

フィリップ・J・デイヴィス

フィリップ・J・デイヴィス（Philip J. Davis、1923年 - 2018年3月13日）は、アメリカ合衆国を代表する数学者の一人です。彼は数値解析や近似理論といった応用数学の分野で重要な貢献をしただけでなく、数学そのものの歴史や哲学に対しても深い洞察を持っていました。長年にわたりブラウン大学で教鞭を執り、名誉教授の称号を得ています。

マサチューセッツ州ローレンスに生まれたデイヴィスは、ハーバード大学で数学を専攻しました。1950年に、高名な数学者ラルフ・P・ボアズ・ジュニアの指導の下、博士号（Ph.D.）を取得しました。博士課程修了前には、第二次世界大戦中に短期間ながら空軍に所属し、空気力学の研究に携わった経験も持ちます。

博士号取得後、彼は国立標準局（現在の国立標準技術研究所）に入局しました。ここでは数値解析チームを率いる中心的役割を果たし、ミルトン・アブラモヴィッツとアイリーン・スティガンが編纂した、数学研究者にとって不可欠な参考書とされる『数学的関数ハンドブック』の執筆にも参加しています。国立標準局での功績を経て、1963年にブラウン大学へ移籍し、その後のキャリアの大部分を同大学で過ごしました。

デイヴィスの学術的な貢献は多岐にわたりますが、特に彼の著作活動はユニークで、数学界に新たな視点をもたらしました。ルーベン・ハーシュ氏との共著である『数学的経験』（The Mathematical Experience）は、現代数学の様相や、その歴史、さらには哲学的な考察を包括的に論じた画期的な著作として知られ、1983年度の全米図書賞を受賞しました。また、フィリップ・ラビノウィッツ氏との共著『数値積分の方法』（Methods of Numerical Integration）は、長年にわたり求積法分野の基本的な文献として広く参照されました。『内挿法と近似法』（Interpolation and Approximation）は、その分野の専門家にとって今なお必読の書とされています。

専門書以外にも、デイヴィスは自身の経験や数学に対する思いを綴った著作を発表しています。自伝である『ある数学者の教育』（The Education of a Mathematician）は、彼の数学への道のりを知る上で貴重な一冊です。また、いくつかの他の著作にも自伝的な記述が含まれています。さらに驚くべきは、彼がフィクション作品も手掛けていることです。数学をテーマにしながらも、従来の枠にとらわれない自由な発想で書かれた作品群の中でも、『脈絡--数学的物語』（The Thread: A Mathematical Yarn）は特に有名です。この作品は、かつて『サイエンティフィック・アメリカン』の編集長を務めたジェラード・ピール氏に「文学的形式への脱線を累乗した」と評されたように、ロシアの数学者チェビシェフの名前の綴りに関する議論から始まり、愉快な脱線を繰り返しながら読者を引き込む独特のスタイルを持っています。

数学分野の教育的著述に対する貢献も高く評価されており、1963年にはガンマ関数に関する論文によってショーヴァネット賞を受賞しました。他にも、アメリカ数学会（MAA）のヘンドリック記念講演（1991年、『螺旋--テオドロスからカオスへ』はこの講演がもとになっています）を担当するなど、数多くの賞を受賞し、国内外で招待講演を行いました。

フィリップ・J・デイヴィスは、2018年3月13日に95歳で永眠しました。その訃報はブラウン大学のホームページでも発表されました。

デイヴィスは、応用数学の研究者としてだけでなく、数学史家、哲学者、そして優れた文筆家として、数学という営みの多面性を探求し続けた人物です。彼の著作は、専門家だけでなく、数学に関心を持つ多くの人々に影響を与え続けています。

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