フィリッポ1世 (ターラント公)

フィリッポ1世の生涯

フィリッポ1世（1278年11月10日 - 1332年12月23日）は、アンジュー＝シチリア家の一員として、波乱に満ちた生涯を送りました。彼はターラント公、アルバニア王、アカイア公、そして名目上のラテン皇帝という複数の地位を歴任し、その生涯は中世ヨーロッパの権力闘争と領土争いの縮図とも言えるでしょう。

生い立ちと最初の結婚

フィリッポ1世は、ナポリ王カルロ2世とハンガリー王イシュトヴァーン5世の娘マリアの間に生まれました。1294年2月4日、父カルロ2世はフィリッポをターラント公に任命し、同年7月12日にはシチリア総督にも任じました。これらは、カルロがアドリア海東方の帝国をフィリッポに与えるための準備でした。シチリア総督時代には、エピロス専制公ニケフォロス1世の娘タマル・アンゲリナ・コムネナと代理結婚をしました。ビザンツ帝国の脅威にさらされていたニケフォロスは、アンジュー＝シチリア家の援助を求めており、この結婚を承諾しました。二人は1294年8月13日に正式に結婚しました。

この結婚の際、カルロはアカイアおよびアルバニア王国の宗主権とラテン皇帝の全ての権利をフィリッポに譲渡しました。ニケフォロスは娘の持参金として、いくつかの要塞をフィリッポに与え、自身の死後には娘タマルを後継者とすることを決めました。1296年にニケフォロスが死去すると、フィリッポは「ルーマニア専制公」を名乗り、エピロス、アイトーリア、アカルナニア、大ヴラキアの継承権を主張しました。しかし、ニケフォロスの寡婦アンナ・カンタクゼーネーは、息子のトーマースをエピロス専制公とし、自身は摂政となりました。

シチリア晩祷戦争

シチリア総督としてのフィリッポは、シチリア晩祷戦争後期にシチリア島への侵攻に参加しましたが、1299年のフラコナラの戦いでフェデリーコ2世に敗れ、1302年のカルタベッロッタの和平が結ばれるまで虜囚の身となりました。

バルカンの継承

1306年、アカイア女公イザベル・ド・ヴィルアルドゥアンとその夫フィリッポ1世・ディ・サヴォイアがナポリのカルロの宮廷を訪れました。カルロはフィリッポ・ディ・サヴォイアの背信を糾弾し、イザベルが結婚の許可を宗主から得ていなかったことを理由に、二人からアカイア公位を剥奪し、息子のフィリッポに与えました。フィリッポは短期間アカイアを訪れ、エピロスに進軍を試みましたが成功しませんでした。アカイアにはアテネ公ギー2世をバイイとして残しました。

イザベルとその夫フィリッポ・ディ・サヴォイアは、1307年5月11日にアルバ伯領と引き換えにアカイアに対する請求権を放棄しました。

二度目の結婚とアカイア政策

1309年、フィリッポは最初の妻タマルの密通を理由に結婚を解消しました。1313年7月29日、フィリッポはヴァロワ伯シャルルの娘カトリーヌ・ド・ヴァロワと結婚しました。この結婚を機に、フィリッポはアカイア公位をイザベル・ド・ヴィルアルドゥアンの娘マオー・ド・エノーに譲渡しました。この譲渡には制限があり、マオーに子がいない場合は公位がブルゴーニュ公家に戻るというものでした。また、マオーは宗主の許可なく再婚できないという制約も付いていました。

1315年、フィリッポは兄ロベルト1世の命により、フィレンツェの援軍に向かいましたが、モンテカティーニの戦いで敗北を喫し、弟ピエトロと長子カルロを失いました。

1316年にルイ・ド・ブルゴーニュが嗣子なく死去すると、アンジュー家のアカイア政策は予期せぬ方向に進みました。マオーはロベルト1世によってフィリッポの弟ジョヴァンニと結婚させられそうになりますが、彼女はこれを拒否しました。長い脅迫と説得の末、1318年にマオーは結婚を強制され、新しいバイイがアカイアに派遣されました。しかし、1320年ブルゴーニュ公ウード4世はアカイアとテッサロニキの権利をクレルモン伯ルイ1世に売却しました。フィリッポは資金提供を受け、アカイアの権利のみを購入しました。

マオーはアヴィニョンの教皇のもとに連れてこられ、そこでブルゴーニュ貴族との秘密結婚を明かしました。この結婚を理由に、アンジュー家はアカイアを没収し、ジョヴァンニに与えました。マオーはその後、ナポリで虜囚のまま生涯を終えました。

その後の活動と晩年

フィリッポはラテン帝国の再建を目指し、ハンガリー王カーロイ1世と同盟を締結しましたが、実現には至りませんでした。1330年には最初の妻との間の息子フィリッポが死去し、ルーマニア専制公の地位が彼に戻されました。1332年にフィリッポが亡くなると、彼の全ての権利は2番目の妻との長男ロベルトに継承されました。

子女

フィリッポ1世は二度の結婚で多くの子をもうけました。

最初の妻タマル・アンゲリナ・コムネナとの間には以下の子供がいました。

カルロ (1296年 - 1315年) - ルーマニア総督、モンテカティーニの戦いで戦死。
ジョヴァンナ (1297年 - 1317年) - アルメニア王オシンと結婚。
フィリッポ (1300年 - 1330年) - ルーマニア専制公
マリア (1301/4年 - 1368年) - コンヴェルサーノ女子修道院長
ベアトリーチェ (1305年 - 1340年) - アテネ公ゴーティエ6世と結婚
ビアンカ (1309年 - 1337年) - アンプリアス伯レモン・ベレンゲールと結婚

二度目の妻カトリーヌ・ド・ヴァロワとの間には以下の子供がいました。

ロベルト (1319年 - 1364年) - ターラント公、名目上のラテン皇帝（ロベール2世）
ルイージ (1320年 - 1362年) - ターラント公、ナポリ女王ジョヴァンナ1世と結婚しナポリ王となる。
マルゲリータ (1325年頃 - 1380年) - アンドリア公フランチェスコ1世・デル・バルツォと結婚
フィリッポ2世 (1329年 - 1374年) - ターラント公、アカイア公、名目上のラテン皇帝（フィリップ3世）

フィリッポ1世の生涯は、中世ヨーロッパにおける政治的、軍事的な複雑さを象徴するものであり、彼の行動は後の時代に大きな影響を与えました。

参考文献

Bon, Antoine (1969) (フランス語). La Morée franque. Recherches historiques, topographiques et archéologiques sur la principauté d’Achaïe. Paris: De Boccard.
Topping, Peter (1975). “The Morea, 1311–1364”. A History of the Crusades, Volume III: The fourteenth and fifteenth centuries. Setton, Kenneth M.; Hazard, Harry W.. Madison and London: University of Wisconsin Press.
Geanakoplos, Deno (1975). “Byzantium and the Crusades, 1354–1453”. A History of the Crusades, Volume III: The fourteenth and fifteenth centuries. Setton, Kenneth M.; Hazard, Harry W.. University of Wisconsin Press.
Richardson, Douglas (2011). Plantagenet Ancestry: A Study In Colonial And Medieval Families (2nd ed.)

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