フィルム・アーカイヴ

フィルム・アーカイヴ：映画遺産の保護と継承

映画フィルムや、ポスター、脚本、写真など映画制作に関わるあらゆる資料を収集・保存する機関が、フィルム・アーカイヴです。映画博物館と呼ばれることも多く、フランス語圏では「シネマテーク」として知られています。これらの機関は、貴重な映画遺産の保護と、未来への継承という重要な役割を担っています。

歴史：映画保存への道のり

映画の発明直後から、映画フィルムの保存の重要性を指摘する声はありました。しかし、フィルムの可燃性や、映画を文化財と認識する意識の低さなどから、多くのフィルムが失われました。本格的な保存活動が始まったのは、1920～30年代。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツを中心に専門組織が設立され、1938年には国際フィルム・アーカイヴ連盟（FIAF）が設立されました。

初期のフィルムは、硝酸セルロース製の可燃性のナイトレート・フィルムでした。自然発火の危険性も高く、多くのフィルムが失われました。1910年代には不燃性の酢酸セルロースフィルム（アセテート・フィルム）の開発が始まり、家庭用フィルムでは普及しましたが、劇場用映画への使用は1950年代になってからです。その後、各機関は可燃性フィルムから不燃性フィルムへの転写作業に追われました。しかし、近年ではナイトレート・フィルムの高い保存価値が再認識され、適切な保存環境下での保管が重要視されています。一方、アセテート・フィルムも加水分解による劣化（ヴィネガー・シンドローム）の問題を抱えており、完璧な保存素材ではないことが明らかになっています。

カラーフィルムについても、1950年代以降のイーストマンカラーなど、高温多湿下での色褪せが大きな問題となっています。マーティン・スコセッシ監督など、映画制作者も保存の重要性を訴え続けてきました。

第二次世界大戦後、世界各国で映画保存の機運が高まり、FIAFの加盟機関も増加しました。現在では、多くの国が国立・公立の組織を中心にフィルム・アーカイヴを設立しています。メジャー映画会社やテレビ局が独自のアーカイヴを持つケースもあります。FIAFは毎年会議を開催し、映画保存に関する問題を議論しています。日本でも、2007年に東京で初の会議が開催され、2009年には日本人会長が誕生しました。

デジタル技術の進歩により、デジタル保存の可能性も議論されていますが、現状ではフィルムの解像度にデジタルが追いついていないこと、デジタルフォーマットの急速な変化への対応の難しさから、フィルムの保存を最優先し、デジタル複製を併用することが主流となっています。

運営：保存と公開のバランス

フィルム・アーカイヴの運営は、保存と公開のバランスが重要です。公開を重視しすぎるとフィルムの損傷リスクが高まり、保存に偏ると資料の有効活用が難しくなります。そのため、これらのバランスを取りながら、以下の業務を遂行します。

保存: フィルムや関連資料の適切な保管
カタログ化: 資料の整理・分類・目録作成
資料収集と調査: 新たな資料の収集と既存資料の調査研究
上映企画: 映画の上映会やイベントの企画・運営

大規模なフィルム・アーカイヴでは、上映施設や展示施設を都市中心部に、保存庫を郊外に置くことが一般的です。

重要な業務の一つに映画の復元があります。複数のフィルム断片を繋ぎ合わせたり、デジタル技術を用いて画質・音質を修復するなど、様々な技術が用いられています。

ノンフィルム資料（ポスター、脚本など）の取扱いは、機関によって様々です。資料をほとんど所蔵しない機関もあれば、ノンフィルム資料を主に扱う機関もあります。公開方法は、展示室や図書室の運営が中心となります。

日本のフィルム・アーカイヴ

日本では、国立[[映画アーカイブ]]（旧・東京国立近代美術館フィルムセンター）がFIAFに加盟しています。他に、福岡市総合図書館、京都府京都文化博物館、川崎市市民ミュージアム、広島市映像文化ライブラリーなどがフィルム・アーカイヴとしての役割を担っています。個人による大規模なアーカイヴも存在します。

これらの機関は、日本の映画遺産の保護と公開に重要な役割を果たしており、今後もその活動が期待されています。

もう一度検索