フィロポエメンの身分の露頭

『フィロポエメンの身分の露頭』は、17世紀フランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスと静物画家フランス・スナイデルスが共同で制作した油彩作品です。この作品は、二人の画家にとって初期の共同制作であり、ルーベンスが人物像を、スナイデルスが前景の豊かな静物群を担当しています。

この絵画は、古代ギリシアの歴史家プルタルコスの『英雄伝』に記述されているエピソードに基づいています。スパルタと戦った将軍フィロポエメンが、自身の身分を隠してメガラの町を訪れた際、その質素な外見から地元の老婆に召使いと間違えられ、薪を切る仕事を命じられます。しかし、老婆の夫がフィロポエメンの威厳に気づき、彼の身分が明らかになる場面が描かれています。

ルーベンスは、この絵画の構図を、ルーヴル美術館に所蔵されている油彩スケッチに基づいて描きました。このスケッチは、ルーベンスの制作方法に従って大雑把に描かれ、詳細な描写は欠いています。ルーベンスはこのスケッチについて、「協力者としてのスナイデルスを心に描きながら成されたもの」と述べていますが、物語自体には多数の静物の描写は存在しません。プラド美術館に所蔵されている絵画は、このスケッチを基にしつつも、いくつかの変更が加えられています。例えば、フィロポエメンの足の位置や老婆の被り物の大きさが調整されています。

ルーベンスがイタリアから帰国した直後に制作された本作は、彼がイタリアで得た古代文化への深い知識を示しています。力強い人物描写や、明暗を強調した光の表現は、イタリア美術の影響が色濃く表れています。同時に、ルーベンスのバロック絵画における革新的な才能も十分に示されています。一方、スナイデルスは静物画家としての専門性を発揮し、ルーベンスの構想に沿って、七面鳥や白鳥など、彼が生涯繰り返し描くことになる鳥を含む静物群を描きました。

美術史家のコスロウは、この作品を「バロック様式の初期における台所や市場の場面を描いた作品として、静物画の歴史において重要な位置を占める。また、この種の初期作品としては最大級である」と評価しています。この作品は、ルーベンスとスナイデルスの才能が融合した、バロック美術の傑作の一つと言えるでしょう。

もう一度検索