フィンガーポーク・オブ・ドゥーム

フィンガーポーク・オブ・ドゥーム：WCW凋落の象徴

「フィンガーポーク・オブ・ドゥーム（Fingerpoke of Doom, 「破滅の指突き」）」は、1999年1月4日にプロレス団体WCWの番組『マンデー・ナイトロ』内で起こった、象徴的な事件を指します。アトランタのジョージア・ドームでの出来事は、ライバル団体WWF（現WWE）との視聴率競争「マンデー・ナイト・ウォーズ」において、WCWが凋落するきっかけの一つとして記憶されています。

事件の背景

無敗記録を誇っていたゴールドバーグは、1月4日のナイトロの8日前の興行『スターケード'98』で、ケビン・ナッシュの持つWCW世界ヘビー級王座に挑戦しました。試合はゴールドバーグが圧倒的に優勢に進めるものの、スコット・ホールが乱入し、ゴールドバーグをスタンガンで攻撃。ナッシュがその隙にピンフォールを奪い、王座を奪取。ゴールドバーグの連勝はストップしました。

しかし、ナッシュは勝利に納得せず、スターケード翌日のナイトロでゴールドバーグとの再戦を宣言。1月4日のナイトロのメインイベントで、ナッシュ対ゴールドバーグの王座戦が組まれることになりました。

当日の展開

ゴールドバーグとナッシュの再戦への期待から、ジョージア・ドームのチケットは完売。4万人以上の観客が詰めかけました。しかし、番組中盤でゴールドバーグはミス・エリザベスに対するストーカー行為を理由に（という筋書きで）警察に逮捕されてしまいます。ゴールドバーグは無実を主張しますが、その一方で、2ヶ月前に「引退」していたハルク・ホーガンが、ゴールドバーグの逮捕を見て引退を撤回。普段着のまま、ナッシュと引退試合を行うと宣言します。ナッシュは、ゴールドバーグが戻れない場合に限り、ホーガンと対戦することを承諾しました。

当時、ホーガンはnWoハリウッドのリーダー、ナッシュはベビーフェイスのnWoウルフパックのリーダーという設定で、両者の間には抗争がありました。このnWoの派閥争いは高視聴率を稼いでおり、これまでにも何度か試合が組まれていました。

メインイベントの時間になると、ホーガンはスコット・スタイナーを引き連れて登場。続いてナッシュが入場し、リング上でホーガンとにらみ合います。ナッシュがエントランスを指差すと、かつてナッシュのタッグパートナーであり、後にホーガン派（nWoハリウッド）に寝返ったスコット・ホールが、赤と黒のウルフパックTシャツを着て現れました。

試合と結末

試合が始まると、ホーガンとナッシュはしばらく見合い、その後ナッシュがホーガンをコーナーに押し込みます。すると、ホーガンはナッシュの胸を軽く指で突きました。するとナッシュは大げさに倒れ込み、ホーガンがそのままフォール。あっという間にホーガンがWCW世界ヘビー級王座を奪取しました。

試合後、ホールとスタイナーがリングに上がり、ナッシュと共にホーガンの勝利を祝福。nWoの再結成に会場は騒然となる中、警察から解放されたゴールドバーグがリングに駆けつけ、nWoに襲い掛かります。しかし、レックス・ルーガーがゴールドバーグを助けるかと思いきや、裏切って攻撃。ゴールドバーグはnWoによってロープに手錠で拘束され、スコット・ホールが持ち出したスタンガンで攻撃を受け、無力化されました。さらに、背中にスプレーでnWoの文字を書き込まれるという屈辱を受けます。

WWFの策略と視聴率の変動

同日、裏番組であるWWFのロウ・イズ・ウォーでは、マンカインド（ミック・フォーリー）がザ・ロックを破り、WWF王座を獲得しました。この試合は、D-ジェネレーションXやコーポレーションといった人気ユニットが介入し、さらにストーン・コールド・スティーブ・オースチンが乱入するなど、大きな盛り上がりを見せました。WCWは、この結果を放送中に暴露しましたが、これが裏目に出ます。数十万人の視聴者が、マンカインドの王座奪取を見ようと、ナイトロからロウにチャンネルを変えたのです。結果、ロウの視聴率は5.7、ナイトロは5.0となり、WWFに大きく差をつけられることになりました。

事件の余波

この事件以降、WCWの視聴率は低下の一途を辿りました。ナッシュがあっさりと負けたことでWCW世界ヘビー級王座の価値は下落し、後に俳優のデヴィッド・アークエットやライターのビンス・ルッソーが王座に就くことで、その権威は失墜しました。また、nWo再結成によって、nWo自体の魅力も低下し、やがてストーリーから姿を消すことになります。

当時のWCWで唯一のスターだったゴールドバーグが、nWoに翻弄される姿は、最悪の結末として受け止められました。連勝記録で人気を博したゴールドバーグが、nWoにリンチされるという結末は、視聴者離れを加速させました。

さらに、『スターケード'98』のメインイベントの価値が失われたことで、関連DVDの売り上げや、団体全体の信頼性にも大きなダメージを与えました。

フィンガーポーク・オブ・ドゥームは、WCWの衰退を象徴する出来事として、プロレス史に深く刻まれています。

もう一度検索